タイで星を掴んだ男・下地奨「ハングリー精神と成功は無関係」(2)

カレン・ロバートがアジアリーグで稼いだ生涯年俸はJリーガーをはるかに凌ぐ

 下地は銀座のボーイからタイに活路を見出し、タイに渡って半年後にモウリーニョ率いるチェルシーと対戦した。そして試合前にモウリーニョと握手を交わした。 「もうね、実際にモウリーニョと対面してみると、オーラが全然違うんですよね。“今日は、よろしくな”みたいな感じで声をかけてくれるんですけど、それだけでああこの人の下で一回サッカーやってみたいなと思わされるんですよね」  あの試合のとき、モウリーニョは下地が銀座でバイトをしていたまでは把握していなかったかもしれないが、シモジという選手の国籍と身長が何cmかくらいは記憶していたに違いない。  もう一つの下地の特徴は相手の長所に焦点を当てることである。サッカー仲間のことを評するときにも必ず対象の実績の部分を語る。 「今、タイのムアントンで活躍してる青山直晃って、あいつは空中戦では絶対に勝つし、ああいう高さがあるセンターバックって外国のほうが認められるんですよ。何よりもムアントンという毎年優勝を争うチームで狭い外国人枠の中で四年間生き延びている。この凄さをわかってもらいたいですよね」  確かにそうだ。青山は筆者の友人でもあるが、読売巨人軍で阿部慎之助より長く在籍する外国人選手など、想像すらできない。長友佑都に至っては、今やあのインテルで一番の古株となっている。この凄さは、どれだけ強調しすぎてもまだ足りない。 「カレン・ロバートもそうですよ。高校時代の実績を考えるとプロで活躍できなかったと片づけるのは簡単ですが、あいつがプロとして稼いだ生涯年収を考えると大部分のJリーガーに圧勝しているんですよ」  カレン・ロバートと下地奨は同学年と言うこともあり、カレンがタイにいたころ深く付き合ったという。 「顔の作りからは想像もつきませんけど、誰よりも日本人ですよね。ほら、高校時代にイケイケだったじゃないですか。だから絵に描いたような派手なサッカー選手かと思っていたら、全然違いましたね」  どう違っていたのだろう。 「僕はバンコクにいて、カレンはスパンブリーでしたけど、練習が休みになると必ずバンコクに来て、うちに泊まるんですよ。まあうちの子供と遊んでくれるから全然いいんですけど、明らかにサッカー選手ではないですよね。ビジネスマンなんでしょうね」  カレンは三か月滞在したインドで二万円しか遣わなかった男だ。バンコクでホテル代を払うはずがない。スパンブリー時代の固定出費は車のレンタル代毎月15000円程度と言っていた。筆者が知るカレン・ロバートと、下地奨が家に泊めたカレン・ロバートは、間違いなく同一人物のようだ。  次回は、下地奨から見たタイリーグの長所と短所を余すところなく語っていただくことにしよう。 【タカ大丸】  ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。  雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。公式サイト
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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