このサービスには、最近世界中で流行りつつあるAirbnb(エアービーアンドビー)やCouchsurfing(カウチサーフィン)などといった民宿業界も熱い視線を注いでいる。
家を貸す側と借りる側がアプリ上で鍵の情報をシェアしていれば、鍵を直接会って手渡したり、郵便ポストの中に無防備に入れておいたりする必要もないため、防犯上のリスクを考慮した主要な受け渡し方法として確立できると期待されているのだ。
この自販機が対応できる鍵の種類は、数百にのぼると「KeyMe」は豪語する。一般家庭で使われる鍵はもちろん、オフィス用、南京錠、複雑な構造をしたMUL-T-LOCKやMedecoなどの鍵も、その場で作製可能だ。
さらにはトラックを含めた自動車、船、複製の難しい「FOBキー」、「トランスポンダーキー」の読み込みも可能。現在のところ、これら自動車などの鍵は自販機での作成に対応しておらず、2~5日以内の郵送という形をとっているが、車の鍵をなくした場合、ディーラーへの自動車搬送費などを含めると、最悪1,000ドル(約113,000円)ほどかかってしまうこともあるところ、自販機経由だと、FOBキーやトランスポンダーキーでも70ドル(約7,900円)から、それ以外の鍵だと20ドル(約2,260円)から作製依頼ができるという。この金額は、通常の「鍵屋」の値段よりはるかに安い。
しかし、こうしたIoTが普及すると、必ず聞こえてくるのが「情報漏えい」に対する不安の声だ。
とりわけ同サービスにおいては、家に侵入できるものを扱うため、「安易に情報をクラウド上で保管していいものなのか」という意見がアメリカ国内になかったわけではなかった。
これに対し同社は、鍵の登録時に住所が聞かれることはなく、郵送サービスの際に記入した住所も、鍵に関する情報とはリンクされずに管理されていると説明する。そのため万が一、システムがハッキングされたとしても、第三者が家を特定・侵入してくる危険性は限りなく低いといえる。
さらに、登録された情報を自販機で呼び出すには、指紋認証やクレジットカードが必要で、こうした利用履歴も全て記録されるようになっているという。鍵をアプリに登録する際は、チェーンから外し、ブレないように平ら、かつ背景が白い場所で裏表の写真を撮らねばならないという、「物理的セキュリティ」も加わるため、カバンからはみ出ている鍵を第三者に複製される可能性はほとんどゼロに近い。
日本は自他ともに認める「自販機大国」だが、この「KeyMe」の自販機にはアメリカらしさを強く感じた。
「KeyMe」のCEOグレッグ・マーシュ氏が同社を創設したきっかけは、ニューヨークに引っ越してきた当初、彼の妻が鍵をなくす度に、数百ドルを払って業者を呼ばねばならなかった過去の経験にあるという。そんな「妻の失敗」は、今や全米1,000か所以上、ニューヨーク市内だけでも約100か所の24時間営業の薬局やコンビニエンスストアの一角で、多くの窮地を救っている。2年後にはその数を10,000か所にまで増やす考えだ。
人間が失敗や不便な環境下から学ぶものは多い。革新的な技術や利便性に溢れた未来もいいが、「失敗できる」環境は、来たる「超デジタル時代」にも多からず残っていてほしいものだ。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
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