日本の探査機、月の地下に巨大な空洞を発見。いったい何がすごいのか?

米国の月探査機が撮影した月の縦孔。この下に、広大な地下空洞が広がっていることが明らかになった Image Credit: NASA/GSFC/Arizona State University

 月の地面の下に、全長50kmにもおよぶ巨大な空洞が広がっている——。そんなSF的な想像をいろいろとかき立てられる研究結果を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2017年10月18日に発表した。  この地下空洞を発見したのは、JAXAなど国内外の研究者が参加する国際共同研究チーム。もともと地下空洞が存在することは理論的に予測されていたが、研究チームが日本の月探査機「かぐや」の観測データを詳しく解析した結果、この空洞がたしかに存在することをつきとめた。  この月の地下空洞は、科学的な面からも、そして人類の月面基地や都市の建設といった面からも、今後の探査や開発には大きな意義と可能性がある。しかし、そこに発見した張本人である日本がどこまでかかわることができるかは不透明な状況にある。

日本が見つけた月の「縦孔」が地下空洞への入り口

 地下空洞が見つかったのは、月の表側(いつも地球から見える面)の西にある、「嵐の大洋」の中のマリウス丘と名づけられた場所である。  この場所にはもともと、2009年にふしぎな「縦孔」が見つかっている。月面を詳しく探査していた「かぐや」が発見したもので、その後米国などの月探査機がさらに詳しく観測した結果、これがただの孔ではなく、孔の奥にある程度の広さの地下空洞が広がっていることがわかった。  研究者らは、この地下空洞を「溶岩チューブ」によってできたものだと予測していた。溶岩チューブというのは、火山から噴火した溶岩が地面を流れていく際、表面だけが固まり、内部が流れ続けていくことで、やがて表面を天井とする天然のトンネルができあがる現象のこと。地球上、たとえば富士山の周辺にも、風穴と呼ばれる溶岩チューブができており、一部は観光名所として公開もされている。  現在の月は火山もなにもない、静かな世界が広がっているが、かつては火山の噴火が起こっていたと考えられており、地形や石の組成など、さまざまな痕跡がそれを物語っている。この地下空洞はそのときにできた溶岩チューブで、そしてどこかのタイミングで隕石がちょうど天井に衝突するなどして孔が開き、やがてこうして人類の目にとまることになった、というわけである。  もっとも、本当に地下に空洞があるのかは、月のまわりを回りながらカメラで撮影したのではわからなかった。  そこで今回、研究チームは、「かぐや」に搭載されていた、電波を使って地中の構造がわかる装置のデータや、のちに米国の探査機が観測した地中の密度のデータを詳しく解析した。  その結果、たしかに地下に空洞が、それも床から天井までの高さ約数十から200m、幅約100m、そして全長50kmにもおよぶ、広大な空洞が広がっていることが確認できたという。  ちなみに月には表側にもう1つ、裏側にも1つの、あと2つの縦孔があることが確認されている。また孔が現れていないだけで、他にも地下空洞が存在する場所があるかもしれない。研究チームでは今後も、月全体を対象にして、さらに研究を続けるとしている。

地下空洞の存在は、日本の月探査機「かぐや」による電波を使った観測の結果、明らかになった Image Credit: JAXA/SELENE/Crescent/Akihiro Ikeshita for Kaguya image

次のページ 
「月の地下空洞」が持つ意味
1
2
3