BFRは大きな人工衛星の打ち上げや、月面都市建設などにも活用できる Image Credit: SpaceX
マスク氏は、BFRの製造は今後数か月以内に始まるとし、早ければ2022年にも、無人で火星に向けて打ち上げ、そして2024年からは有人飛行を行いたいと語る。ロケット飛行機の実現時期については明言されなかったが、ほぼ同時期の実現を狙っているとみてよいだろう。
しかし、ロケット飛行機も火星移民も、実現までには、BFRを完成させるという技術面はもちろん、火星への飛行には医学や倫理といった問題、ロケット飛行機も法律や、航空機メーカーや航空会社の抵抗などといった問題がからんでくるため、実現は一筋縄ではいかないだろう。
ただ、実際にBFRに使うロケットエンジンやタンクなどの開発が進んでいることも明らかにされ、少なくとも机上の空論、絵に描いた餅以上の段階にはきている。マスク氏の見立てより数年から10年ほど遅れる可能性は十分にあるが(マスク氏も遅れる可能性については認めている)、夢物語というほど荒唐無稽なわけでもない。
そしてロケット飛行機にとどまらず、マスク氏の“交通革命”に向けた意気込みは本気である上に、筋も通っている。
現在彼は、ロケット飛行機以外にも、低圧(ほぼ真空)トンネルの中に高速列車を走らせる
「ハイパーループ」(Hyperloop)という計画を立ち上げており、実現すればロサンゼルスとサンフランシスコ間の約600kmを、わずか35分で結ぶとしている。さらに、都市の地下にトンネル網を張り巡らせ、車を載せた台車を高速で走らせる計画も進めており、すでに「ザ・ボーリング・カンパニー」(The Boring Company)という会社も立ち上げられている。
ロケット飛行機はあくまで、米国と欧州、米国とアジアといった、大陸間を移動する際に真価を発揮する。東京~大阪のような距離なら、ハイパーループが役に立つ。街と街の間のような近距離ならザ・ボーリング・カンパニーの出番になる。さらに地下トンネルを走る以上、排気ガスが問題になるが、マスク氏が経営するもうひとつの企業「テスラ」は、すでに多くの電気自動車を開発、販売している。付け加えるならテスラは自動運転も可能である。
マスク氏が手がけている事業のひとつ「ハイパーループ」。ほぼ真空の状態にしたトンネル内に高速列車を走らせるという計画である Image Credit: Hyperloop One
これらを組み合わせた交通システムが実現すれば、地球上における人や物の移動速度や効率は大幅に向上し、生活もビジネスも大きく変わることになろう。そしてなにより、この技術は、月面都市や火星都市における交通手段としても応用ができる。とくに火星は大気が薄く、月にいたってはほとんど存在しないため、ハイパーループは地球以上に実現させやすいはずである。
つまりマスク氏が現在手がけている事業はすべて、地球上で交通革命をもたらしつつ、究極的には月や火星への移住の実現をももたらす、“すべての道は火星に通ず”なのである。
もちろん、ロケット飛行機にしろハイパーループにしろ、技術的に不可能ではない、あるいは物理法則に反していないからといって、実現可能とみるのは時期尚早であり、実現までには資金はもちろん、人材、技術をはじめ、さまざまな要素が必要な上に、多くの困難が待ち受けている。
しかし忘れてはならないのは(そしておもしろいのは)、マスク氏と彼の会社はすでに、その必要な要素のうちいくらかを手にし、困難を乗り越えつつもあるということである。
スペースXが考える火星都市の想像図 Image Credit: SpaceX
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・Mars | SpaceX(
http://www.spacex.com/mars)
・Elon MuskさんはInstagramを利用しています:「Fly to most places on Earth in under 30 mins and anywhere in under 60. Cost per seat should be about the same as full fare economy in an…」 ・ Instagram(
https://www.instagram.com/p/BZnVfWxgdLe/?taken-by=elonmusk)
・Elon Musk revises Mars plan, hopes for boots on ground in 2024 – Spaceflight Now(
https://spaceflightnow.com/2017/09/29/elon-musk-revises-mars-plan-hopes-for-boots-on-ground-in-2024/)
・FACTS & FREQUENTLY ASKED QUESTIONS | Hyperloop One(
https://hyperloop-one.com/facts-frequently-asked-questions)
・The Boring Company(
https://www.boringcompany.com/)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイト:
КОСМОГРАД
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