今後もニュー・グレンが着実に打ち上げ受注を取れるかどうかは未知数だが、実は他にも他のロケットにはない強みがある。フェアリングの広さである。
フェアリングというのはロケットの先端にある覆いのことで、ロケットが宇宙空間に達するまで、中の人工衛星を守る役割をもつ部品のことである。つまりフェアリングの広さが、そのままそのロケットが積める衛星の大きさ(体積)ということになる。
現在運用されているロケットのフェアリングは、すべて直径5mほどしかない。もちろんそれでも十分ではあるものの、今後より大きな衛星や、大きな部品をもつ衛星を打ち上げたいという需要が発生した場合には対応できない。
しかしニュー・グレンは、ロケットが巨大であることから、フェアリングの直径も7mもあり、さらに長さもあるため、その内部(容積)は従来のロケットより2倍以上の広さがある。
そして前述のように、ニュー・グレンの打ち上げ能力が他のロケットよりも大きいことも相まって、従来のロケットで打ち上げられる限界の大きさ・重さをもつ衛星でも2機同時に打ち上げたり、あるいは小型衛星を数十機まとめて打ち上げたり、もちろんこれまで打ち上げられなかったような巨大な衛星を打ち上げたりといった芸当が可能になる。
こうした強みに加え、今後ニュー・グレンが、2020年のデビュー後も着実に成功を積み重ね、そして再使用による打ち上げコスト、そして価格の低減も実現すれば、まさに無敵のロケットになれる可能性を秘めている。
衛星を分離する直前のニュー・グレン。ニュー・グレンは機体が大きく、それに伴いフェアリング(覆い)も大きいため、従来のロケットよりも大きな、あるいはたくさんの衛星を積むことができる Image Credit: Blue Origin
ニュー・グレンの存在は、その最大のライバルとされるスペースXはもちろん、他のロケット会社にとっても大きな脅威となりつつある。今後、ニュー・グレンに負けない価値(価格、性能など)をもったロケットを投入するか、たとえ遅れを取ったとしても、ニュー・グレンがもつトレンドに対応できるよう、ロケットの改良などで付いていかねばならないだろう。
たとえば日本は、ニュー・グレンの打ち上げが始まる2020年に、新型の大型ロケット「H3」を打ち上げることを予定しており、現在開発が続いている。しかしH3はまだ商業打ち上げ受注は取れておらず、その点ではすでに遅れを取っている。
またフェアリングも最大5.2mなため、もし今後、ニュー・グレンで打ち上げることを前提とした大きな衛星が登場すれば、H3では対応できず、受注の機会を逃してしまうことにもなりかねない。さらにH3は再使用も考えられていないため、もしニュー・グレンが再使用で大きな低コスト化に成功すれば、コスト面でも太刀打ちできなくなる可能性もある。
2020年の前後には、米国や欧州などの他の会社も続々と新型ロケットを投入する予定をしている。つまりこれは日本に限った話ではなく、他のすべてのロケット会社が直面する問題でもある。
ネット通販界をAmazonがほぼ独占したように、ロケット界もまた、ベゾス氏が独占することになるのだろうか?
ニュー・グレンの想像図 Image Credit: Blue Origin
<取材・文・写真/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・Blue Origin | New Glenn(
https://www.blueorigin.com/new-glenn)
・Blue Origin | Engines(
https://www.blueorigin.com/engines#be-4)
・Eutelsat signs up for Blue Origin’s New Glenn launcher – Eutelsat Corporate(
http://news.eutelsat.com/pressreleases/eutelsat-signs-up-for-blue-origins-new-glenn-launcher-1845131)
・mu Space partners with Blue Origin to launch geostationary satellite – mμ Space Corp(
https://www.muspacecorp.com/news/mu-space-partners-blue-origin-launch-geostationary-satellite/)
・Jeff Bezos Says He Is Selling $1 Billion a Year in Amazon Stock to Finance Race to Space – The New York Times(
https://www.nytimes.com/2017/04/05/science/blue-origin-rocket-jeff-bezos-amazon-stock.html)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイト:
КОСМОГРАД
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