多くの起業家を輩出する秘訣は、「稟議書なしで社員が事業を子会社化できる」経営方針!?

起業家が育つ理由

――次に多くの起業家を生み出している御社の方針について伺います。御社には「稟議書なしで事業を子会社化」「異動希望先の上司の了承を得られれば、自由に異動可」といったユニークな制度がありますね。 上田:我々が事業をしているのは、ソーシャルメディアやシェアリングサービスなど新しい産業です。新しい産業とは、聞こえはいいですが、要は本当に身になるかわからないものが多い産業(笑)。むしろ基本、実現しないけど、もしかしたら世の中を変えられるかもしれない、くらいの可能性にかけるしかない。  重要なのは、そこには経営のテクニックではなく、「何としてでも理想の世の中を作るんだ」という意志。“やらされ仕事”では絶対できません。我が社ではライフワークとライフプランを重視していて、「あなたの人生で必ずやり遂げたいことはなんですか?」と、社員に問いかけています。  ただ、そこで見つかったやりたいことが、僕たちがやっていることと無関係というケースもある。そうなったとき、退社するのも選択肢ですが、一度入社したのであれば、子会社化して一緒にやろうよ、と。強い意志を持っている人物がやっているサービスは支援したいし、弊社としても、そこの資本の一部でも持っていれば絶対プラスになる。 ――社員のやる気がビジネスをかなり大きく左右すると。 上田:これがある程度、ビジネスとしての形が固まっている産業であれば、いま提供しているサービスを正しく、しっかり提供することが、高い収益に繋がる。一方、私たちがいる新しい産業では、まず何よりも思いが重要。それで失敗することもあります。弊社も過去に4億円を調達してあっという間に溶かしてしまったことも。 ――育成方針について、社員の「育成」はせず「邪魔しない」というとありました。社長として、社員が気持ちよく働ける職場環境づくりでこだわるポイントはありますか? 上田:ユーザーサポートをしているメンバーに関してはシフト制で出社してもらっていますが、それ以外のメンバーについては勤務時間の裁量労働制を採用している。働く場所についても、自宅勤務でも認めている。もちろん過度に出社しなくなる不安はあります。そこで、私は、社員一人ひとりに「会社行くと得だな」と思わせなくちゃいけない(笑)。面白いメンバーが常に揃っていて、いろいろな形で出入りが盛んに行われていて、シェアオフィスっていいなと。  そのためにはイベントが必要。弊社は今、6階建てビルの一棟借りているんですが、これ会社規模からしたら大きすぎで、ワンフロアしか使っていない。残りの5フロアはワーキングスペース、フリースペースとして開放しています。そこで交流が生まれる。ただ、シェアオフィスといっても、メンバーが固定されてしまうので、さまざまな交流イベントを行って、新しいメンバーにも遊びに来てもらう。 ――今の就活生・新入社員をどう見ていますか? 「今の若い人は安定志向」と揶揄されることもありますが、そういった実感はありますか? 上田:安定志向といいますが、今の世の中、大企業に入れば安心というものはない。一方、これだけ不安定な状況下で、我々はどうやって世の中を変えてやろうかと思案している、こんだけ小さい会社なのに(笑)。  若者は慎重になるのもいいが、あえて不安定な場に飛び込んでいってほしい。海外旅行なんかも『地球の歩き方』や旅行先のホームページを見るより、いきなり現地に飛んでいくべき。そのほうが、その土地のことがよくわかると思うんです。例えば、僕、小学校の頃、毎日4km泳いでたんですよ(笑)。 ――え、4kmも! しかも毎日ですか? 上田:そう。でも、僕の学校、クラス全員そうだったんですよ、小学校2年生の頃から。でも特にしんどいとか思わなかった。中学に入ったら、クラスに泳げない人がいて、びっくりしたくらいで、つまり「頑張らなきゃ、頑張らなきゃ」って自分自身が思うよりも、必然的に頑張らなきゃならない環境に身を置くことが大事だと思うんですよね。 <取材・文/井野祐真>
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