新潟県知事時代の泉田氏。当時は舌鋒鋭く政府の原発政策を批判していた
続いて泉田氏は、知事時代の経験に基づいて「(日本の原発の)避難計画はなきに等しい」と酷評した。
「チェルノブイリ原発事故で、4万2000人を避難させました。このとき、バス何台で避難したのかわかりますか? 40人乗りだから1200台。運転手さんが『あんな危ないところは二度行きたくない』というから、運転手も1200人集めた。それで避難をしているわけです。
ところが柏崎刈羽原発の場合、屋内退避指示が出るエリアに44万人がいるのです。ということは、1万3000~1万4000台のバスが必要です。運転手は県内に1000人弱しかいない。そうすると、他県から来てもらわないとならないでしょう。
ところが、国交省の旅客運送法のサービス基準があって、通常のバス経路をちゃんと運用しないと処罰を受けることになっているのです。ということは、『非常時に他のエリアのバスの運行経路を止めてもいい』という法律を整備しないといけない。でも、まったく何もやっていない。
出たところ勝負で『さあやるぞ』と言ってもダメ。さらに福島(原発事故)の経験で言えば、体の悪い人はバスではダメなのです。福祉車両が要ります。福祉車両の運転手さんを、どうやって確保するのですか。
アメリカはいざ原発事故になった時に備えて、物資を運ぶ人を決めているのです。あらかじめ『私は(緊急時に)行きます』とサインをしていて、放射線防護の勉強もしています。そして、いざという時にもう一回サインをして出動していく。当然、『危険手当て』も出ます。
ちなみにチェルノブイリの時にも特別手当てが出ているのですが、原発事故が起きた時にそういう態勢がなければ、福島と同じ大災害になってしまうでしょう。死ななくてもいい方が亡くなってしまうわけで、何もやらずに『安全だ』『安全だ』というのはおかしいだろうということを強く言いたい」
「自民党国会議員となって変える」という泉田氏に、先輩の古賀氏「寝言を言っているようなもの」
田中俊一・原子力規制委員長は、原発を技術的観点からしかチェックをせず、原発テロのリスクには無関心。一方、安倍政権は原子力規制委の“お墨つき”をもとに原発再稼働を進めようとしている。
この現実を「自民党国会議員となって変える」と意気込む泉田氏だが、「原発推進の自民党が一国会議員の主張を受け入れるのか」という疑問が払拭されたとは言いがたい。
一方、泉田氏の経産省時代の先輩である古賀茂明氏は「自民党国会議員となって原発政策を変えるなどというのは、寝言を言っているようなもの。実現可能性は皆無」と指摘。「(原発再稼働に反対なら)野党系候補として出馬すべき。もし自民党から出たら落選運動を呼びかける」と公言している。
全国有数の注目選挙区となるとみられる新潟5区の帰趨は、“泉田原子力防災論”による自民党の政策変更が本当に「実現可能」なのかどうかも争点となりそうだ。
【取材・文・撮影/横田一】
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた
『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他
『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数