マラソンマニア・タカ大丸の珍道中 ”ジャマイカ代表”・猫ひろしの号砲で始まった加計呂麻島レース

やらかしてしまった町長

 港には続々と前日奄美に泊まっていたランナーが送り込まれてくる。この島の宿泊施設は数が限られているので、単純に全員を泊めることができないのだ。この日は約七百人のランナーが参加した。そして、スペシャルゲストとしてリオ五輪カンボジア代表の猫ひろし氏が登場することになっていた。  開会式の時間となり、町長が挨拶に立つ。 「本日はお日柄もよく、方々から沢山の方々にご参加いただき、ありがとうございます」  とかなんとか、型通りのスピーチである。このままだとネタにならないな…と私はぼんやりと考えていた。  町長のスピーチが続く。 「さて、本日はスペシャルゲストといたしまして、ジャマイカ代表の、ジャマイカ代表の、ええジャマイカ代表の……」  町長の額に焦りの汗が見えたような気がする。あれ、こんな鹿児島の小島にジャマイカから誰が来るのだろう?そもそも、短距離でジャマイカが強いのは誰でも知っているが、ハーフマラソン、長距離で強いというのは聞いたことがない。  すると、どこからかさらに焦った声が聞こえた。 「違う違う、カンボジア、カンボジア!」 「ああすみません、大変失礼いたしました。カンボジア代表の猫ひろしさんにお越しいただいております」」  よりによって絶対に間違えてはいけないところを間違えてしまった。  こういう人、私は決して嫌いではない。会場は暖かい笑いに包まれた。私に投票権があれば、絶対次回投票する。  たとえばだが、オーストラリアとオーストリアを混同するのはわからないでもない。あるいはスロヴェニアとスロヴァキア、トルクメニスタンとタジキスタンとかなら(どれも絶対やってはいけない間違いだが)なんとなくありえそうな気がする。  しかし、ジャマイカとカンボジアでは音も違えば、場所も全然違う。一体、なぜ間違えてしまったのだろうか? 前日に、私もチョイ役で関わっている「下町ボブスレー」のドキュメンタリーでもご覧になっていたのだろうか。  そんなこんなで開会式も終わり、参加者は三々五々スタート地点へ向かうことになる。果たして、私は二時間後どんな顔をしてここに戻っているのだろうか。猫ひろし氏の号砲で、レースは始まった。 【タカ大丸】  ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。  雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。公式サイト
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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