38歳の日本人がタイの大学院で農学を学び始めた理由

変わりつつあるタイ農業と農学部

 しかし、小宮氏は農業についても、やり方次第では農業においても未来は決して暗いものではないという。 「持続可能な農業形態を作り上げることが今後のカギになってくるのかもしれません。そのためには環境面の向上や農業収入を上げ、地方に若者をとどまらせることができる農業にしていくことではないでしょうか。付加価値のある作物を作ったり、オーガニック農法などで食の安全やおいしさを求めた食材を生産する。それが農家全体の環境や収入面を向上させます。今年は僕の日本米にも興味を持つ農家も増えてきており、付加価値ある作物を農家が自ら求め始めています」  また、都心部でも健康に気遣うことからオーガニックは流行しており、近年では栄養が豊富なうえ、抗酸化作用などが期待される赤米「ライズベリー米」が開発されるなど、タイ人全般的に農業に目が向いている好ましい状況ができつつある。  そのため、農学部が、タイ人にとっても興味深い学部となってきているのだ。

マネジメント側面を実施で教える試みも

 また、チェンマイ大学では、学生たちにビジネスとしての農業の側面を教えるべく、ブッサラ教授が中心となって「ヤング・ファーマーズ・マーケット」というイベントを実施している。学生よりも社会経験が豊富な小宮氏はそこに便乗し、自ら栽培したオーガニック野菜を販売している。 「毎週土曜日の午前中にチェンマイ大学内で開催しています。最初は注目されませんでしたが、今では150人前後のお客さんが訪れます。売り手は学生と卒業生です。仲介業者を介さないのでサプライヤーとコンシューマーの距離が近く、価格的にもフェアな値段になってお互いにメリットがあります」 ⇒【写真】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=150846

オーガニック野菜も注目されるタイで徐々に知名度を上げるマーケットの売り手は現役学生か卒業生。(写真提供:小宮克久氏)

 売り方、見せ方を知ることで増収に繋がる。実際に目の当たりにすることで学んでいくことも多く、特に若者はその好奇心でどん欲に次のステップへと邁進するパワーを秘めている。小宮氏は若い農学部の学生たちは期待できると評価する。 「彼らが在学中に付加価値のあるオーガニックファームなどを運営できるようになれば、今後その技術をさまざまな分野に広めていくことだってできます。オーガニックファームは化学製品をほぼ使わないため、そこだけ見ても環境にメリットがありますよ。土壌にとっても、いろいろな生き物にとっても、人間にとっても重要なことです。今後は東南アジアでオーガニック農法を広げていくコンサルタントになる学生も出てくるでしょう。そういった人材が今後の新たなタイの農業に革命をもたらすかもしれません」 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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