橋本病にニューヨークで罹患した筆者の闘病記。きっかけは10か所以上の円形脱毛だった

平熱が34度までしか上がらず、1日500gずつ体重増加

 先述の通り、筆者が初めて自分の体の異常に気付いたのは、円形脱毛症だった。渡米直前に様々なことが同時に起きたため、最初は「ストレスでハゲたんだ」と納得する一方、筆者が当サイトで執筆している工場シリーズで紹介している通り、今まで数々の修羅場をくぐり抜け、心臓にさえ「毛」が生えていると自負する筆者が、これしきのストレスでハゲるとは、「おい自分、そんな繊細な作りだったか」と驚いてもいた。  頭のハゲは、今でこそ笑い話として披露できるが、後頭部と右側頭部を皮切りに、ピーク時には500円玉・10円玉ハゲが10か所以上にできた。締めて合計2,570円也。行動も性格も男っぽい筆者にとって、長い髪の毛は自分が女性であると確認できる数少ないアイテムの1つだったため、これにはさすがにかなり落ち込んだ。  筆者の場合、もう1つ顕著に現れた症状は、体重の増加だった。ひと夏で8キロ、今に至るまでに12キロ増えた。  「痩せなくとも太ってくれるな」と、1日に雑穀米でできた小さなおにぎりを1個と牛乳1杯、2茶碗分のワカメしか口にしない日々。それでも翌日には0.5kgずつ太っていく。が、橋本病に気付かない多くの患者と同じく、筆者も「おばさん老けりゃそんなもん」と、当初はそれでも病気を疑うことはなかった。  また、この大きな体に似合わず、元々平熱も血圧もがかなり低かったのだが、いよいよ体温計が34度台までしか上がらなくなった時は、自分が今生きているかを確認すべく、暇さえあれば脈を取る癖ができる。  この他、軽く指をぶつけただけで爪が面白いように割れるようになったり、顔は常に“酒飲み”の朝のようにむくんだりするようになった。夏を過ぎようとする頃には、こうした「容姿」だけの変化に限らず、単純な作業にもミスをするような集中力の欠如も目立ち始める。 「なんでよその国で30代の嫁入り前が、ハゲのデブのヘマにならなあかんのか」と、これら症状が増えていくたびに、何よりもメンタルがきつくなり、まんまと橋本病の症状の1つである鬱にも片足を突っ込みかけ、ようやくたどり着いた「夢のスタート地点」から、一時期本気で帰国を考えたりもした。  橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは4~5人に1人未満で、必ずしも先に挙げたような症状が現れるわけではない。基本的に完治しないといわれる病ではあるが、発症してもホルモン薬を飲み続けることで、その症状はほとんどの場合寛解する。筆者の場合も、ステロイド注射やホルモン薬のおかげで毛も「全額清算」し、体温も5度台後半まで上がった。ジムで体をいじめれば、ゆっくりではあるがなんとか痩せるようにもなり、日常生活に支障のないレベルにまで改善している。  放っておくと悪化の一途をたどる橋本病。少しでも心当たりがあるようならば、一度甲状腺科または内分泌科で検査を受けてみるといい。  次回は、時系列を追いながら筆者がどういった対策をしたかを紹介したいと思う。 【橋本愛喜】 フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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