この宇宙服を着た宇宙飛行士が乗り込むことになるのは、スペースXが開発中の「ドラゴン2」という有人宇宙船である。
ドラゴン2の開発は、米国航空宇宙局(NASA)からの委託と資金援助をもとに進められている。かつてNASAは、自らが主導する形でスペースシャトルなどのロケットや宇宙船を運用していたが、2000年代に入って、補給物資や宇宙飛行士の輸送といった業務を民間企業に委託しようという動きが始まった。宅配便や旅客機のように、NASAは企業に運賃を支払い、その対価として企業は宇宙船や貨物船を運用する、という形である。民間に委託することで宇宙産業が育ち、また運用の効率もよくなり、予算の節約にもなるという考えだった。
そして、その計画を担う一社としてスペースXが選ばれ、地球に帰ってくるロケットとしておなじみとなった「ファルコン9」や、無人の貨物型のドラゴン、そして有人のドラゴン2などの開発が進められた。そして、ファルコン9はすでに40機が飛び、貨物型のドラゴンもすでに運用され、国際宇宙ステーションに物資を運び、さらに研究成果などを地球に持ち帰るミッションを何度もこなしている。一方のNASAは、浮いた予算や人員を他の分野に費やすことができた。
しかし、有人のドラゴン2は、当初はかなり先進的な設計を取り入れていたことや、NASAからの安全性の要求に応えるのに苦労するなどしたことで、開発は難航。またスペースXと同様に、大手航空・宇宙メーカーのボーイングも同じ計画に参加し、宇宙船の開発を行っているが、こちらも開発に難航し、設計変更などを繰り返したことで計画は遅れに遅れた。結果的に、NASAは当初の予定よりも長い間、ロシアにお金を払って宇宙船への搭乗権を買い続ける羽目になってしまった。
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スペースXが開発中のドラゴン2宇宙船 Image Credit: NASA
それでも、ようやくドラゴン2も、またボーイングの宇宙船も完成が見えつつあり、現在のところ、ドラゴン2は2018年2月に無人での初飛行で試験を行い、その後、同年6月に有人での宇宙飛行が予定。ボーイングも同年6月に無人飛行、8月に有人飛行を予定している。
「ドラゴン2」は運用開始からしばらくの間は、プロの宇宙飛行士、つまりNASAや他の宇宙機関で選抜された宇宙飛行士が乗り、地球と国際宇宙ステーションとの間の往復に使われる。もしかしたら日本人宇宙飛行士が乗り込むこともあるだろう。
しかしスペースXは、ドラゴン2を商業宇宙船、すなわちお金さえ払えば誰でも乗れる宇宙船として使う考えももっている。
すでに今年2月には、2018年末ごろに2人の民間人を乗せたドラゴン2を打ち上げ、月との往復飛行を行う計画を発表している。もっとも、旅費は非公開ながら1人あたり100億円前後であると考えられるため、到底私たちの手が出るものではない。
では、月より近い、国際宇宙ステーションへの飛行ならどうかといえば、NASAが支払う運賃は1席あたり2000万ドル(約22億円)とされるため、やはり私たちには遠い夢の話である。
しかし、5年後、あるいは10年後となれば、話は変わってくるかもしれない。
スペースXはロケットを再使用することで、1回あたりの打ち上げコストを大幅に引き下げようとしているが、宇宙船のドラゴン2でも機体を再使用することで、コストを安くしようとしている。すでに10~30%ながらコストダウンに成功しているロケットと比べ、宇宙船は勝手が違うため、単純に「ロケットでできたから宇宙船でもできる」と言うことは難しいが、いくらか可能性はある。もっとも、それでも億単位の金額になることは避けられない。