韓国のテレビ局が2社合同ストライキを決行! 反抗的な記者の名前を載せた“ブラックリスト”が発端か

政権と癒着してきたメディアにツケが回ってきた形

 もともとMBCには視聴者に人気がある国民的バラエティ番組が多い。「無限に挑戦」、「私は一人で暮らす」など人気番組もストライキによって当面は放送休止が濃厚だ。  事態が拡大したことを受けて、全国言論労働組合MBC本部は、先月末にストライキ批准投票を実施。その結果、投票率95.7%(在籍人員1758名のうち1682人)、賛成93.2%(1568票)の圧倒的多数でストライキ権を確立した。  同じように、KBSでも社内に「アナウンサーブラックリスト」が存在するとして、MBCのストライキを全面支持。KBS記者500人も制作拒否のストライキに踏み切った。  このストライキを受けてMBC社長であるキム・ジャンギョム氏は、雇用労働部(日本でいうところの厚生労働省)に出頭。12時間にもわたる調査を受けたと報じられた。キム社長自身は不当な解雇や人事異動などの不当労働容疑を、強く否認している。  また、KBS経営陣も黙っていない。「今は朝鮮半島が緊迫している危機的状況」、「国民はKBSに正確な報道を求めている」、「信頼を取り戻すべくストライキを起こしているなら、今こそ国民に確かな情報を伝える時だ」と今月3日に北朝鮮が行った核実験を引き合いに出し、わざと危機感を煽りながらストライキを起こしている記者たちに仕事復帰を呼びかけた。  公営放送2社が大規模なストライキに至った経緯には、ブラックリストが直接的な要因となっている一方、既存の政権の「大本営発表」としての役割が拡大していった点が大きい。  朴槿恵政権時に多くの犠牲者を出した「セウォル号事件」や「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」と呼ばれる崔順実被告による国政介入事件など、いずれの事件においても韓国メディアでは、政府に不利な報道を一切せず、国民との温度差が目立っていた。今回のストライキを記者協会やプロデューサー協会などがこぞって支持していることからも、制作過程において、様々な制約や圧力が加えられていたことが伺える。  いずれの団体もMBC社長のキム・ジャンギョム氏とKBS社長のコ・デヨン氏の退陣を声高に訴えており、労組と経営陣が対立するほど事態の長期化は避けられない。  メディアの社会的な責任が問われているのは韓国だけではない。メディアの最大の義務は「権力の監視」である。しかしメディアが権力の監視をしているのと同様に、庶民は、国営メディアと政府の距離感をいつも「監視」している。  ジャーナリズムといえでも絶対的な客観性を保つことは出来ない。誰かの目で、誰かの耳で、誰かの心で、見て聞いて感じたことを、メディアを通じて発表した時点で、そこには必ず主観的な要素が介在してしまうからだ。  日々報道されるニュースに、権力が靄を被せてないのか。韓国テレビ局のストライキ騒動を、対岸の火事と思ってはいけない。 <文・安達 夕 @yuu_adachi
Twitter:@yuu_adachi
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