東京最西端の書店である青梅市の多摩書房。味のある店構えでファンも多い
実は、都市の書店事情も似たようなものである。
たとえば、出版産業の総売上高がピークに達した二昔前、東京23区内のJR中央線のある駅から半径700~800メートル以内には、店舗を構えた新刊書店が12店営業していた。チェーン店の2店舗以外は、家族経営の生業店か地場の大型店だった。その後、4店が新規開業し、うち2店はほどなく閉店。既存店も徐々に閉店していった。
現在残っているのは4店舗だ。このうち二昔前から営業しているのは2店舗のみ。1店舗を除き、チェーン店に置き換わってしまった。しかも、これらの書店は駅前の半径200メートル以内に集中し、周囲は無書店地帯と化した。20年前と比べると全書店の総売り場面積も半減に近い。
この街に住んでいたことのある私は、小さな生業店をよく利用していた。狭いながらも雑誌はもとより、文芸書の棚が充実し、お客もよく入っていた。だが、徐々に客数が減り、店主は険しい顔を見せるようになった。
ある日、その店は閉店し、飲食店に代わった。商店街をブラブラしていると、店主が幼い子どもと一緒に歩いているのを見かけた。朗らかな表情だったのが印象的であった。
その後、この書店と交流のあった人が「店舗を貸したら、本屋をやっていたときよりも利益が上がって悠々自適の生活になったんだって。これじゃあ何のために本屋をやっているのかわからなくなりますよね」と話してくれた。
東京都内の書店数は17年で1040店から336店に
別のJR駅近くの一等地で営業していた書店も、コンビニエンスストアに衣替えした。大家の元書店主が賃貸に出したところ、毎月80万円の賃料が入っていくようになった。社員やアルバイトを雇い、資金繰りに苦しんでいた当時と、粗利はほとんど変わらないという。
23区内のそれなりの乗降客のいる私鉄駅前でさえ、書店が1店もないところが現れている。東京の西のはずれ、奥多摩町では1店だけ残っていた生業店が10年ほど前に閉店し、無書店自治体になってしまった。
書店の事業者団体である東京都書店商業組合の加盟書店数を見ると、1990年ごろに1400店を超えていたのが、2000年には1040店となり、17年4月現在では336にまで急減した。東京組合にすべての書店が加入しているわけではないが、組合書店の多くが中小零細書店だ。都市部においても、街の本屋の衰退は明らかである。
書店が薄利多売で成り立っていた時代はとうに過ぎ、薄利少量販売となった。なんとも報われない商売である。
<文・写真/長岡義幸>