NAFTA再交渉開始でメキシコの労働者は賃金が上がる!?

アメリカ、カナダがメキシコの労賃改善を要求

 ところが、米国が最初の交渉台で取り上げたのはメキシコの労賃の改善であった。メキシコの労賃が余りにも安く、トランプの狙いである米国の企業がメキシコへの進出を阻むことが出来ないということなのである。  カナダの主要労働組合の一つUniforも<「メキシコとの問題は交渉代表がメキシコの給与の見直しをする用意がないということなのである」「彼らの給与は余りにも低く、我々は競争できない」>と同代表のジェリー・ディアスは述べている。(参照:「Sin Embargo」)  メキシコの給与は「経済協力開発機構(OECD)」35か国の中で最も低い給与だとされており、これは米国で支給される給与の4分の1だという。例えば、メキシコでの平均日給は14.63ドル(1610円)ということで、ひと月に4万円程度しか稼いでいないということである。これはラテンアメリカで最も低い賃金を支給しているニカラグアやエル・サルバドールと同等のレベルにある。(参照:「Sin Embargo」)  メキシコでの給与が低い理由は一般に生産性の低さと、生産に必要なエネルギー資源などが比較的高いということなどのハンディを負担して輸出力をつける為のしわ寄せが労賃を低く抑えるという方向に向かったことにある。また、労働者を守る労働組合の存在が非常に弱いということもそれを容易にしている。  メキシコはNAFTAのお陰で輸出の80%が米国向けである。特に、米国に隣接しているという地理的条件と労賃の安さで多くの国際企業がメキシコに投資して工場を建設してきた。メキシコでは300-400万人の雇用がNAFTAに依存していると言われている。(参照:「Sin Embargo」)  この依存度からメキシコではこの協定を無視できない経済になっている。仮にNAFTAを離脱すると、ペソは下落し、景気は後退、失業者は増加しインフレも上昇すると推測されている。ムーディーズは<メキシコがNAFTAから離脱した1年後には失業者は30万人増加する>と指摘している。(参照:「Sin Embargo」)  その意味でも、メキシコは米国が再交渉で要求している労賃の値上げを検討して行かねばならない立場にあるようである。 <文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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