大阪市では、以前にも「憩いの広場」を作り出すことで活性化した場所がある。それは2015年10月にリニューアルオープンした天王寺公園(大阪市天王寺区)だ。
高度成長期には多くのホームレスの寝食の場に、そして1990年代には「青空カラオケ」や無許可露店で有名となっていた天王寺公園であるが、2015年の改装後はかつての面目を一新。入園料を無料化するとともに、エントランスエリアなどを誰もが憩える大型の広場「てんしば」とした。
「てんしば」は、大阪市の公募で選ばれた「近鉄不動産」がマネジメントを担当。全体は約25,000平方メートルで、そのうちの約7,000平方メートルを芝生広場としたほか、園内には雑貨店、フラワーショップ、アスレチック遊具、子供向けの屋内プレイランド、フットサルコートなどを設置され、「ファミリーマート」や「タリーズコーヒー」といったお馴染みのチェーン店も出店している。
広場では開園直後からイベントも頻繁に開催されており、ショッピングに、グルメに、スポーツにと様々な目的での来園者が集う場として人気を呼び、開園から1年間の来園者は改装前の3倍以上(改装後1年間で約420万人、リニューアル前は約120万人、近鉄不動産発表による)。この4月にもレストランや産直市場が新設され、8月には「居酒屋フェスティバル」が開催されるなど、大人も子供も楽しめる場として進化を続けている。
天王寺公園に生まれた広場「てんしば」。産直市場なども設けられる
今回新設される「なんば駅前広場」の広さは約2,000平方メートルと、「てんしば」の1割ほどの面積に留まるものの、広場は南海なんば駅、高島屋、丸井、南海通り商店街、戎橋筋商店街などに囲まれた場所であるうえ、なんばグランド花月(現在改装のため休業中)やNMB48劇場、大阪府立体育会館(エディオンアリーナ)も近接するなど、大阪・ミナミのショッピングと娯楽の中心に生まれるものだ。そのため、「公園」というエリアで縛られた天王寺公園・てんしばよりも街との繋がりが強いものとなる。
つまり「なんば駅前広場」は、行政と地元商店会、企業などが一体となって作る、いわば「てんしばの発展系」とも呼べるものなのだ。
「なんば安全安心にぎわいのまちづくり協議会」による完成予想図
なんば駅前広場が完成する2019年には広場に近接する新歌舞伎座跡地にホテルを核とした複合施設が生まれるほか、エクセルホテル東急、相鉄インの難波初出店、大丸心斎橋店(しんさいばしみせ)本館の建て替え工事完了など、ミナミが大きく生まれ変わる年となる。
近年、キタ(梅田)とミナミ(なんば)の商業施設による熾烈な「客引き競争」が話題となっている大阪市。過密化する都市の中心部に新設される「駅前広場」は、ショッピングだけに頼らないミナミの新たな魅力の発信基地として、これまでとはまた違った人の流れを生み出すものとなろう。
<取材・撮影/淡川 文/若杉(ともに都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
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