例えば、営業成果はある程度は出ているけれども、活動実績が上がらないという事実をふまえて、その理由についての仮説を立てる。演習を実施すると、ほとんどが、マネジャーとしての自分の経験に照らして、仮説を立てている。
自分と同じ考え方や行動パターンをしていて、自分と経験をしてきたメンバーであれば、自分に照らして仮説を立てることの意味はあるだろう。しかし、そのようなメンバーがいるだろうか。
そもそも、メンバーはマネジャーと同じ考え方や行動をしていて、マネジャーと同じ経験をしてきたと思うことの方がおかしい。しかし、現実に、わが国のビジネスパーソンは、そのように思い込んでいるかのように、わが身に照らして、仮説を立てる。それでは、仮説が当たらないことが普通だ。
要は、メンバーは、マネジャーである自分とは異なる考え方や行動パターンをしていて、自分とは異なる経験をしてきたのだという、当たり前のことを前提として、自分に照らして仮説を立てるのではなく、メンバー自身の特性に照らして、仮説を立てるのだ。
メンバー自身の特性に照らして仮説を立てる際に、最も仮説の確度を高めるのが、メンバーのモチベーションファクターがどこにあるのか、そのモチベーションファクターを持つ人は、どういう行動をしがちなのかということに思いをはせることだ。
目標達成のモチベーションファクターの人は、チャレンジングで目標達成しやすい領域を見極めることが出来ていないことで、活動量が上がっていないのかもしれない。自律裁量の人は、任されて伸び伸びと仕事をする環境をつくれていないのかもしれない。このように、その人のモチベーションが上がりやすい要素が損なわれていることが、パフォーマンスが上がらない原因にあることが、とても多い。
仮にマネジャーのモチベーションファクターが地位権限で、土日返上も徹夜もいとわず、昇格や昇給が果たせるのであればどんなことにでも取り組みたいタイプだったとしても、メンバーはそうとは限らない。公私調和、安定保障型のメンバーだったら、土日返上・徹夜と聞いただけでモチベーションは下がり、パフォーマンスも上がらない。
「公私調和、安定保障型の休みを取りたがるのはおかしい」「土日返上でも、徹夜でもしてやり遂げるべきだ」と考えること自体が、仮説の間違いなのだ。6つのモチベーションファクターは、20年来演習をする中で分類してきた、日本のビジネスパーソンが持ちがちなモチベーションファクターのモデルだ。良し悪しではないのだ。
現実にそれらのいずれかのモチベーションファクターを持っているビジネスパーソンと共に仕事をしていくのだ。どのモチベーションファクターを持っているかということをふまえて仮説を立てて、メンバーとすり合わせをし、合意形成していくことの意味はとても大きい。
※分解スキル反復演習型能力開発プログラムは、山口博著『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月。ビジネス書ランキング:2016年12月丸善名古屋本店1位、紀伊國屋書店大手町ビル店1位、丸善丸の内本店3位、2017年1月八重洲ブックセンター4位)で、セルフトレーニングできます。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第42回】
<文/山口博>
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを引き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある
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