ADHDは先天的なもの。正しくは「発覚するケースが増加」しているのだ
最近、ネット上でよく目につくようになったのが「大人のADHD」という言葉だ。ADHDは日本語では注意欠陥・多動性障害という名の病気だ。やや舌を噛みそうな単語だが、不注意、多動性、衝動性といった行動を示す障害で、今話題になっているのはこの症状を示す大人たちのことだ。
というのも、この病気はかつて「落ち着きのなさ」に代表される子供の病気と考えられていたが、最近、大人でも一定割合でADHD患者が存在することが指摘され、注目を浴びている。ちなみにADHDは、かつてはアスペルガー症候群といわれた自閉症スペクトラムなどと合わせて「発達障害」と総称される。
世間のADHDに対する認識には誤解が多く含まれていると語るのは、脳神経外科専門医として診療の中でADHDの患者に接することも多い、くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋医師だ。
「そもそもADHDは先天性障害で大人になって突然発症するものではありません。生まれつきの障害が、社会認識や診断の変化などで、大人になってから気づかれるようになったケースが増えてきたに過ぎません」
現時点でADHDは、脳からの指令を伝えるため神経の間で情報のやり取りにかかわる神経伝達物質と呼ばれるものの働きが不十分であることが原因で、とりわけヒトの脳内で行動や注意をコントロールする前頭葉でこの異常が起きていると推察されている。もっともこれは仮説で確定していない。
しかし、意外なことがきっかけでADHDの患者が見つかることもある。工藤医師が語る。
「実は中高年の認知症診断の際に気づくことがあります。現在、一部で使用されている『TOP-Q』という認知症の簡易診断法では、医師が影絵のハトを手で作って見せ、患者に『同じものを作って』と指示します。ところがこれを微妙に間違えて作る人たちがごく一部にいます。そうした人の中にADHDを含む発達障害だったという人が多い傾向があります」
これは空間認識能力に問題があるということなのだが、ヒトの脳でこの能力を司るのはADHD患者で問題があると言われている前頭葉とは別の頭頂葉という部分。要は現在分かっていないだけで、別の原因も考えられうるということだ。
「ADHDの人では、コーヒーや紅茶に砂糖を入れるときに頻繁にこぼしてしまう、はさみの使い方やスリッパの脱ぎ方が下手、自動車の運転中に車間距離が上手く取れずに追突事故を起こしやすい、頻繁に車体を擦るなど明らかに空間認識能力の問題があるケースは少なくありません」(工藤医師)