これまでの強姦罪では女性だけが被害者だったが、改正刑法では性別を問わなくない。そのため、男性被害者に対しても被害者相談支援体制が求められる。
ただ、「暴行又は脅迫を用いて」(暴行脅迫要件)という文言が残った点については課題が残る。これまでも「同意のない性交は罪」が前提だったが、何をもって不同意とするのかの基準が、暴行脅迫要件とされている。しかし性暴力の場面では、恐怖心から体が固まってしまったり、上司と部下など関係性によってはきっぱり拒否できない場合がある。暴行脅迫要件が残ったことで、「はっきりとした抵抗」を示す必要が生じると言われているのだ。
「法務省は性暴力被害当事者の声をしっかり聞いていない。国会での審議の際も、共謀罪より閣議決定が先だったのに、審議が十分ではなかった。きょうこの瞬間にも被害に遭っている人がいるのです」
また「監護者わいせつ及び監護者性交等罪」が新設されたことで、親権者という関係性を利用した性犯罪も処罰できるようになった。この場合は暴行脅迫要件はない。
だが、「監護者」は親子間以外の教師と教え子、職場での上司と部下という関係には適用されない。学校や職場などでの性暴力をどうするのかが課題だ。
そして支援団体等は、公訴時効の撤廃や緩和なども要求してきた。子ども時代に受けた性被害を大人になってから訴えることができるというものだが、今回の改正では論点に上がらなかった。
「性虐待にあった子どもたちは自分がされている行為が躾なのか、遊びなのかわからないまま成長する。被害と認識するまで、そして心理的に回復するには時間がかかり、それだけ人生の時間を奪っていることになるのです」(同)
ほかにも、道具や手指を使った場合は適用されず「強制わいせつ罪」となる。また、「集団強姦罪」は厳罰化に伴い削除された。
ただ、今後も性犯罪の規定は議論が続く。附則に3年後の見直し条項が入ったからだ。
「重要なのは運用面。警察では研修をしっかりしないといけない。これまで被害届が受理されず、『相談』と処理されたケースもある。判決前からふるいにかけられることがないようにしてほしい。(ストーカー対策のように)性暴力に特化した部署を作るべきです」
一人でも多くの被害者を救うためにも、確実な運用が望まれる。
<佐藤かおり氏>
女性と人権ネットワーク共同代表。パープル・ユニオン執行委員長。性暴力禁止法をつくろうネットワーク運営委員。NPO法人全国女性シェルターネット事務局長。