燃料電池車を巡る当事者たちの不安。クルマが先か?水素ステーションが先か?
トヨタ自動車が燃料電池車「MIRAI」を12月15日から発売する。2015年末までの国内販売目標に400台に対して、11月18日の発表時点で受注台数は200台に達しており、滑り出しは順調だ。ホンダも2015年度中に燃料電池車を発売する。水素社会到来に向けて、いよいよ一歩動き出した感があるが、燃料電池車の普及に向けて大きな壁になるのが水素ステーションだ。
燃料電池車は水素を燃料にして走るクルマで、そのクルマに水素を供給するのが水素ステーションだ。いわばガソリン車のガソリンスタンドに当たる重要なインフラで、燃料電池車を普及させるには水素ステーションを増やすことが欠かせない。燃料電池車の開発に取り組む自動車大手の幹部も「商品化、量産化を考えるうえで欠かせないのが水素ステーションの普及。増やしてもらわなければ話にならない」と重要性を強調する。
経済産業省は6月に公表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」で2015年度内に100カ所を目標にすると発表し、補助金も用意した。これまでに岩谷産業、JX日鉱日石エネルギー、東京ガス、大阪ガスなどが水素ステーションに参入を表明している。だが、11月中までに補助金の交付を受けた商用のステーションの計画は50に届かない。
新時代のインフラビジネスになるはずの水素ステーションはなぜ広がらないのか。大きな理由の一つがコストの高さだ。水素ステーションの建設には1カ所で4、5億円かかる。一般的なガソリンスタンドは1億円程度と言われているので、その差は大きい。コストを押し上げている要因の一つがステーションに置く水素の圧縮機で、1.4億円程度と高額だ。安全を確保するための高圧ガス規制法や建築基準法、消防法などの法規制への対応策でもおカネがかかる。さらに土地の取得費用、人件費の高騰などもネックとなる。政府では水素ステーションの建設費用を下げるため規制緩和を進めているが、周辺地域への安全を配慮しながらになるので、一気に進むとは考えにくい。また水素の価格そのものを抑えるには、製造、貯蔵、輸送の供給チェーンを整備も必要だ。
一方、水素ステーションの事業者側にとっては、クルマがない中でステーションを建設するのは難しい。国内1号目となる商用水素ステーションを開設した岩谷産業は、「MIRAI」の発売に先駆けて、燃料電池車向け水素の販売価格を1kg=1100円に設定すると発表した。ハイブリッド車並みの燃料代の設定にすることで燃料電池車の普及を後押しするとしているが、専門家は「あの価格では採算があわないはず」と指摘する。水素ステーションを計画する企業側も「車が走らなければ、水素の価格をいくらに設定しても黒字化できない」と嘆く。
二酸化炭素を排出しない「夢の車」といわれる燃料電池車だが、本格的な普及期に入るのは2020年以降と言われている。それまでの間、補助金漬けにしないための工夫が業界全体に求められている。 <取材・文/HBO取材班>
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