労働時間短縮の裏側で起こっていること「部長、残業しちゃダメですか?」事件簿3連発

事件簿【3】時短が生活にもたらすもの

「残業が減って時間に余裕はできたけど、めっきり生活にはゆとりがなくなったよ」  こう漏らすのは入社8年目のAさん。Aさんの職場は中小企業をメインにした小さめの広告代理店。従来はみんな残業が当たり前で 「何となく会社にいるのが普通でした」  最近では残業申請が必要になり、業務の進捗や計画を細かく上司に報告しないと残業ができなくなったそうです。もともと給与は他社の同年代の人に比べて高めだったので、その分、残業代も高く、ある程度「残業代を見越して生活設計していた」そうです。  ところが、残業が減った為、比例して残業代も減り、以前ほど趣味にお金が回せなくなってしまったというわけです。また、Aさんのまわりでは残業代が減っただけではなく“自身の評価が下がってしまった”同僚もいたそうです。 「仕事量に大きな差が出たみたいです」  Aさんが同僚Bさんについて語ってくれました。  Bさんも以前は同僚の中で誰よりもよく残業をしていたようです。その時は仕事量が他の社員よりも極端に少ないということはなかったようです。ところが、時短が始まってからというもの、日を追うごとに成果に差がついて来てしまい、評価にも大きく影響が出てしまったということです。  かつては要領が悪くても残業して時間をかけて成果を出せば許されていたのですが、残業が自由にできなくなり、同僚との仕事量・成果の差が一目瞭然になってしまったのです。

働き方改革はHAPPYばかりではない

 ブラック企業とか社畜など、企業に対する世間の目はここ数年で確実に厳しいものとなってきました。そして、それに呼応するように行政の動きも活発になり、企業に労働環境の改善を強く求めるようになりました。それがまさに“働き方改革”であるのですが、その改革を求められているのは会社だけではなく“働く人”そのものにも改革が必要なのだということがわかってきました。
大槻智之氏

大槻智之氏

 働き方改革の大本命である“長時間労働の是正”には生産性の向上が必須であり、そのために業務全体の効率化は当然として、労働者個々人も生産性を向上しなければならないからです。今までは苦手な業務であっても時間をかけて期日までに達成できていればよかったのですが、時短により時間をかけずに達成して行かなければならなくなったからです。  今、働き方改革が求めているのは企業に対する生産性の向上ですが、これは同時に働く人個々人にも生産性の向上が求められているということを再認識しておく必要があるようです。  働き方改革は、労働者にとってすべてがHAPPYな改革ではないというお話でした。 <TEXT/大槻智之> 【大槻智之】 ’72年4月、東京都生まれ。日本最大級の社労士事務所である大槻経営労務管理事務所代表社員。株式会社オオツキM 代表取締役。OTSUKI M SINGAPORE PTE,LTD. 代表取締役。社労士事務所「大槻経営労務管理事務所」は、現在日本国内外の企業500社を顧客に持つ。また、人事担当者の交流会「オオツキMクラブ」を運営し、250社(社員総数25万人)にサービスを提供する
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