「経済学」が世界を滅ぼす!――限界に達した資本主義の行方

再生可能エネルギーの普及を阻む既得権益

――企業それぞれに求められることは何かありますか? 谷口:トップである経営者が、川上の資源の価値をきちんと認識していることじゃないですか。資源の採掘が環境や将来世代に与える影響を考え、配慮や対策をするのが企業の社会的責任だと思うんです。’70年代までは、資源や環境に対する哲学や思想をしっかり持っている「資源派経済人」と呼ばれた経営者がまだかなりいたんですが、’85年のプラザ合意以降、急激に円高になって資源に対する価値認識がひどくなった。目先の四半期ごとの業績ばかりを気にするサラリーマン社長ばかりになったこともよくない。 ――最近では、企業の社会的責任や社会貢献といったことがだいぶ重要視されてきているようにも見えますが。 谷口:ポーズにすぎないところがほとんどでしょう。大企業は今、どこもCSR推進部なんてものを作り、わざわざコンサルを雇って勉強会を開いたりしていますが、そんなことしなくても、もともと日本の長寿ファミリー企業は、近江商人の「三方一両得」のように持続可能な経営哲学や経営理念をちゃんと持っていました。日本には、100年以上続く企業が2万5300社、1000年以上続く企業も21社ある。日本の雇用の77%を占めるこうしたファミリービジネスの労働の質に立ち返って学ぶべきですよ。 ――たとえば、バイオ燃料など循環型の再生可能エネルギーの開発・研究をしている企業は、今後伸びていく成長産業になるのではないですか? 谷口:再生可能エネルギーの分野はどんどん伸びていくでしょうし、欧米や韓国・中国ではすでに洋上風力発電や潮流・波力発電などが実用段階として導入されています。ただ、日本だけが周回遅れなんです。なぜなら、電力会社という「レント・シーカー(利権集団)」が、政府や経済産業省の官僚と組んで、原子力発電による既得権益を必死で守ろうとしているからですよ。風力や波力、太陽光、バイオマスによる発電は不安定だから主力にならない、と今でも言い続けているんです。 ――技術的には十分できるはずなのに実用化できないと思わされている、と。 谷口:それに、メタン・ハイドレートやレアメタルなどの海洋資源の開発をもっと進めれば、途上国の地下資源を採掘して環境破壊せずに済むし、家電や電子機器の基盤に使われている金銀銅、レアメタル、レアアースを回収して再利用するシステムを構築すれば、輸入量を大幅に減らせる。できることはたくさんあるはずなんです。
日本のマテリアル・バランス

’11年の総資源投入量のうち輸入資源消費量は48.6%だが、金額にすると輸入資源消費の割合は85.7%と極端に多くアンバランスだ※財団法人クリーン・ジャパン・センター「日本のマテリアル・バランス」をもとに作成

――今後、「持続可能な発展」という視点で見たときに、成長や評価が期待される分野や企業はありますか? 谷口:ひとつ、いい線いってる企業を挙げるなら、積水化学グループですかね。ここは、環境貢献製品を売上の100%にすることを最終目標にしていて、すでに50%を達成している。CSR推進部まかせにせず、社長をはじめ幹部陣がちゃんと勉強していて、トップダウンで取り組んでいるんです。長期的な目で見れば、これからは経済・環境・社会という3つの視点をトータルで考えている企業が、真の成長をしていくと思いますよ。 取材・文/福田フクスケ 撮影/武田敏将
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