どうしておっさんたちは「若者批判」をしたがるのか?
2017.06.06
【石原壮一郎の名言に訊け】~イギリスの諺
Q:同僚と居酒屋に寄ったら、隣の席のおっさん二人組が「まったく近ごろの若者は根性がない」とか何とか、若者批判で盛り上がっていた。よくある光景だ。社内でもテレビでもネットでも、おっさんたちはしょっちゅう若者を批判している。大昔から「近ごろの若者は」というセリフが飽きずに繰り返されてきていることは有名だし、おっさんたちだって知っているはずだ。それでも平気で若者批判で盛り上がれるのが、不思議でたまらない。ひょっとして、恥というものを知らないんだろうか。(千葉県・25歳・小売業)
A:そうですね、恥を知らないと言われても仕方ありませんね。おっさんは若者批判が大好きです。おっぱいも好きですが、もっと好きかもしれません。もちろん、若い頃に当時のおっさんから、さんざん「近ごろの若者は」と批判されてきたことを忘れたわけじゃないし、大昔から繰り返されてきたありきたりな“お約束”であることもよくわかっています。
しかし、人間というのは極めて自己肯定が得意な生き物で、けっこう本気で「俺たちが言われたのはイチャモンだったけど、今の若者は本当にダメだ」と思っているおっさんは少なくありません。さすがにそれは手前ミソだし若者批判は恥ずかしい行為だとわかっている少しは頭がまわるおっさんでも、たちまち味わえる気持ちよさの誘惑に負けて、もっともらしい理由や口実を付けながら、どこかで聞いたような若者批判に精を出しがちです。
おっさんはなぜ若者批判が好きか。イギリスの諺が、わかりやすく説明してくれています。
「この世で一番難しいのは自分を見つめること。一番たやすいのは他人を批判すること」
若者に比べて未来の可能性も気力も能力も何もかも乏しいおっさんが、長く生きてきたという逆転不可能なアドバンテージにすがって、若者をあれこれ批判したくなるのは、悲しくなるぐらいわかりやすい構図です。おっぱいにドキドキするのと同じで、あらがえない自然の摂理と言ってもいいでしょう。だから、そんなに責めないでください。
若者にとって、おっさんの若者批判はさぞうっとうしいでしょう。しかし、どの時代のおっさんも若者批判が好きなのと同じように、どの時代の若者も経験不足でいろんなことに未熟で思い上がりや勘違いが得意です。「またかよ」と呆れるのはかまいませんが、聞こえてきたり目にしたりする批判の中には、たまには役に立つ話もあるはず。そういうときは、参考にしてもらえたら幸いです。的外れだと思ったら、あっさりスルーしてください。
もしかして、熱心におっさん批判をしている若者の側にも、上のイギリスの諺が当てはまるでしょうか。おっさんといういかにもダメな相手を批判すれば、若さという逆転不可能なアドバンテージを根拠にたっぷり優越感にひたれます。それはそれで、おっぱいにドキドキすることにも通じる自然の摂理。日本の諺で言うと「目くそ鼻くそを笑う」ですね。いや「人の振り見て我が振り直せ」かな。
私も押しも押されもせぬおっさんですけど、「若者批判をして何が悪い!」と開き直っているわけではありません。小さなプライドを守るための若者批判や、自分を棚に上げて「どの口が言うか」と突っ込みたくなる若者批判など、醜態をさらす真似はなるべく慎みたいと思っています。若者批判を通じて自分を省みているケースもあるので、多少は大目に見てください。おっさんも若きも、おっぱいにドキドキしてしまう習性に対して、お互いに「ったく、しょうがないなあ」と寛大な目を向け合う感じで。
【今回の大人メソッド】
おっさんの若者批判は、どう工夫してもありきたりです。若者が「またか」と感じない批判をするのは、たぶん不可能でしょう。しかし、若者による「ありきたりな若者批判」の批判も、かなりありきたり。世の中にはありきたりが渦巻いていて、私たちはその枠の中で生きています。そんな謙虚な気持ちを持ちつつ、ありきたりな創意工夫に精を出しましょう。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、最新刊は、今日からすぐに使える大人のフレーズが身につく『大人の言葉の選び方』(日本文芸社)
ありきたりな批判を批判するのも、またありきたり
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