今や定番となった、カレーをソースポットに入れて供するスタイルも中村屋が始まり。奥に見える数々の薬味も中村屋の魅力のひとつだ
さぁいったい、いつ中村屋の純印度式カリーが誕生するのでしょうか……?
その前に1つの恋物語が生まれます。ボースは相馬夫妻の愛娘、俊子さんと恋におち、ついには結婚することに! さらに国外退去命令がなくなった後は日本に帰化して中村屋の役員も務めるようになるんですね。
すべてがうまく行くと思われた矢先の1925年。逃亡生活の心労がたたって俊子さんが亡くなってしまいます。26歳の若さでした。悲しみにくれていたボースでしたが、お世話になっている相馬家に恩返しをする時がやってきます。
そう! 日本で初めてインド式のカレーを販売するという、日本カレー史の新たな一歩がここでついに始まることになるのです!
中村屋はもともとパン屋でしたが、1927(昭和2)年6月に喫茶を開設します。その看板メニューに選んだのがボースのカレー。カレーライスはハイカラな洋食として人気が高く、純インドカリーは他の店では絶対に食べられない“インドの味”でした。
最初こそお客は戸惑ったものの、徐々にスパイスの香りに慣れていきました。そしてその香りに惹かれ、しだいに売り上げが伸びていくことに。当時、洋食カレーの8倍もする超高級価格だったのに、1日に200食はオーダーが入るくらい売れたというから驚きです。
時は流れ、今も多くのカレー好きを虜にする新宿中村屋の純印度式カリー。
志士の熱い魂が宿ったカレーだからこそ、長い時を経ても決して色褪せることなく、人々を魅了し続けているのかもしれません。
<文・写真/スパイシー丸山(カレー研究家、日本野菜ソムリエ協会のカレーマイスター養成講座講師。手作りカレーを振る舞う『スパイシー丸山のカレー夜会』を定期的に開催。著書に
『初めての東京スパイスカレーガイド』(さくら舎)など。
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