加計学園問題は文書の真偽が本質なのか?――【細川昌彦】

まともな官僚は「売り言葉」にひるまない

 しかしそう言われたからと言って、まともな官僚はひるむものではない。単に役所同士の交渉の場でしばしば飛び交う、昔からよくある「脅し言葉」の一つだ。内閣府の担当者のこの程度の言葉で、次官まで圧力を感じるような情けない役所なのだろうか。私にはそうは思えない。  仮にそうであるならば、おかしいと判断した次官は、即座に官邸に対して確認し、筋を通そうと説明するのがトップとして当然の対応ではないだろうか。それができるのが次官であり、それをすべきなのが次官である。それをせずに、今になって「歪められた」と公に発言する元トップの姿を文科省の官僚たちはどんな思いで見ているだろうか。  本質的な問題は、この言葉によって本来あるべき意思決定が歪められたかどうかである。  52年ぶりの獣医学部の新設だという。既得権から長年獣医の数を増やさないようにしてきた強固な岩盤規制だったのだろう。これだけではなく、成田市における医学部の新設も30年ぶりに国家戦略特区の制度で認められた。  このような既得権を打破する規制緩和の動きに対しては、規制を死守したい者にとっては「意思決定が歪められた」ということなのかもしれない。ならばその意思決定の内容の妥当性こそ問題の本質である。これは本来国会できちっと議論すべきで、これまでそれをしてこなかった怠慢こそ問われるべきではないだろうか。  さらに厳しく問われるべきは、トップ官僚の在り方だろう。霞が関の多くのまともな官僚たちはきっとこう思っているだろう。 「俺たちはこんな情けない官僚ではない!」 【細川昌彦】 中部大学特任教授。元・経済産業省。米州課長、中部経済産業局長などを歴任し、自動車輸出など対米通商交渉の最前線に立った。著書に『メガ・リージョンの攻防』(東洋経済新報社) <写真/Dick Thomas Johnson
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