彼ら配達員の労働環境が大きく変わった要因の1つに、過去に行われた道路交通法の改正がある。
2006年6月1日から駐車違反の取り締まり業務が民間に委託され、停車中の車内に人がいなければ、たとえ1分1秒の停車であっても駐車違反として扱うことができるようになった。これにより、彼らの負担は一気に増えたのだ。
トラックを離れれば時間との勝負。重い荷物を持ち、雨風や寒暖に抗いながら走って向かった届け先が不在だった時の落胆は、想像に難くない。再配達を約束する不在通知をポストに残し、「緑色の制服姿」がいないことを願いながらトラックへと戻るのである。
この「緑色の制服姿」の取締員は、違反の対象が配達業者であっても容赦はしない。
そのため、配達員を2人体制にし、いつでもトラックを動かせるようにするなどして対策を取る宅配業者も中にはいるが、もちろん人件費は倍かかることになるため、「送料無料」が珍しくない昨今においては、コスト的になかなか厳しいものがある。こうして違反切符を切られる配達員が激増するも、交通違反をすると配達業務を禁じられたり、今後の昇進に影響したりするため、配達員の知人による身代わり出頭が横行する結果となるのだ。
一方、ニューヨークの配達事情はというと、日本のそれとは比べ物にならないほどレベルが低い。世界の最先端と言われるこの街の配達レベルや姿勢は、日本の配達員の働きぶりを知る人間からすると、正直「配達屋さんごっこ」でしかない。
筆者は最近まで、ニューヨークのクイーンズという人種の交錯する地区に住んでいた。
そこは、高騰するマンハッタンの家賃から逃れた人が多く住むエリアで、マンハッタンにはほとんど存在しない2~3階建ての一軒家に、複数の家族が各階に分かれて暮らしているというスタイルが珍しくない。
筆者も、3階建ての大きな一軒家の2階部分に住む、エクアドル人夫婦の家の一室をシェアさせてもらっていたが、上階には中国人家族、隣部屋にはメキシコ人男性、下階にはイギリス人やドイツ人が住んでおり、1つの玄関を計7世帯が使って生活していた。
そんなにぎやかな家に住み始めてすぐ、日本にいる両親から「荷物を送った」と言う連絡が来た。そうなると数日の間、荷物の到着を待つ側は、その“追跡番号を追跡する”日が続く。というのもニューヨークでは、荷物の時間指定配達サービスがほぼ存在しないのだ。あるのは日にち指定のみで、何時頃来るかは全く見当もつかないのである。
さらに、こういう一軒家にはベルが付いていないか、付いていても壊れていることが多く、1日中待っていても配達員が来たことに気付かないこともしばしば。
となれば必然的に依頼せざるを得なくなるのが「再配達」なのだが、これまたこんなサービスはないに等しく、電話やインターネットで日にち指定しても、予定通り来てくれるのは一部の大手民間配達業者ぐらいで、特に日本の郵便局にあたる「USPS」においては、いくら再配達を依頼し当日すべての予定をキャンセルして1日中窓に張り付いていても、荷物はトラックにさえ載っていない。