「テロ対策が不十分なので原発再稼働をすべきではない」「リスクを認識しながら再稼働を認めた原子力規制委員会はおかしい」と警告を発するのは、若狭氏だけではない。
脱原発弁護団全国連絡会共同代表・海渡雄一弁護士
「脱原発弁護団全国連絡会(共同代表は河合弘之弁護士と海渡雄一弁護士)」は5月2日、「ミサイル攻撃の恐れに対し原発の運転停止を求める声明」を発表、記者会見を開いた。
共同代表の海渡雄一弁護士がこう切り出した。「4月29日には東京メトロや北陸新幹線の運転が止まった。しかし原発については、原子力規制委員会は『止めろ』と言っていない。これはおかしい」
また原子力規制委員会が「特定の重大事故対処施設を作りましょう」と呼び掛ける一方で、施設完成前に再稼働を認めたことも問題視した。
原子力規制委員長「(原発テロ対策の話し合いは安倍首相ら政府関係者と)しません」
この点について、5月17日に開かれた原子力規制委員会で、田中俊一委員長に質問した。
元陸上自衛隊幕僚長・冨澤暉氏
――北朝鮮緊迫化に関連して、日本海側にテロゲリラが上陸して原発テロを起こす懸念があると。これについては1994年6月の北朝鮮有事のときに、自衛隊の元陸幕長の冨澤さんが警察庁の幹部から相談を受けて、「日本海側の原発が狙われたら、警察だけでは対応できない。自衛隊に出動してもらえますか」という問いに対して「いや、防衛出動が出ない前の治安出動は訓練していないのでできません」と答えているのですが、その辺の問題意識はお持ちでしょうか。
田中委員長:セキュリティの問題だね、一種の。
――そういうリスクがある中で、原発稼働をとめるどころか再稼働を認める姿勢はいかがものでしょうか。
佐藤原子力災害対策・核物質防護課長:テロについても、武力脅威事態というのですか、そういった対応を国民保護法なりで定義されているところでございまして、私どもは、いつも委員長が国会答弁で申し上げておりますとおり、原子力安全規制の中でそうした施設の安全確保というのはあると思います。ただ、例えば、今、御質問にあるようなテロとか、それ以前の、我々規制庁として予防的に判断ができないような情報ですね、そうしたものに対して、何か組織として対応するかというと、そこは私どもの所掌というか、対応ではなくて、また別途、防衛省なり、そうしたところが対応するような役割分担ではないかと認識しているところでございます。
――今、原発テロのリスクが高まっている、緊迫化している状況の中で、原子力規制委員会としては動かないのですか。原発テロ対策をどう強化するかを話し合うべきだと思うのですが、そういうことをやっていないのですか。
田中委員長:しません。セキュリティの強化はしていますけれども、細かいことは申し上げません。
田中俊一・原子力規制委員長
――今回の北朝鮮の緊迫化を受けて何か動かれたのですか。安倍総理とお話はなさったのですか。政府関係者とは。
田中委員長:していません。
――日本国民の命と安全を守る責務を放棄しているのではないですか。
田中委員長:あなたはそう思うかもしれないけれども、していません。
――若狭勝さんは原発攻撃のリスクを指摘しているが、それに対して全然答えていないではないですか。(「航空機攻撃のリスクを認識しながら再稼働を認めているのはおかしい」と若狭勝衆院議員が指摘したブログの内容を紹介すると、「(記者の)マイクを取り上げて」と田中委員長が指示。質問は打ち切られた)
松浦総務課長:いや、もう答えています。
結局、原子力規制委員会は原発テロ対策について、話し合ってもいない状態のようだ。「原発の安全性」については、テロなど武力攻撃への対処も含まれなければならない。こうした問題を放置したまま原発再稼働を進めようとする、政府や原子力規制委員会の姿勢には不安が募るばかりだ。
<取材・文・撮影/横田一>