BIGPRのR(Role 役割)について、「むしろ冒頭に話さない方がよい、後出しにした方が商談はうまく進むのではないか」という質問をいただくこともある。すなわち、冒頭では本意を示さずに、終盤のその場になって本意を繰り出す方法だ。例えば、商品を売りたいとする。冒頭ではその目的に言及せず、終盤になって「商品をご購入いただければ幸いです」という話法だ。
しかし、私の演習経験と演習参加者の実例をふまえれば、この方法の成功率は、BIGPRよりも低い。なぜなら、冒頭で目的や役割が明確になっていないことから、聞き手を引き付ける度合が低いままで商談が進むことからだ。聞き手は、いったい何の目的なのだろうか、自分に何をしてほしいと話し手は期待しているのだろうかと不安なままでミーティングに参加しているので、話し手が話に集中する度合が低まるのだ。
加えて、これがより大きな理由だが、話し手が、後段になって例えば商品を売りたいという本意を繰り出した場合、聞き手は話し手に対して不誠実さを感ずるということだ。商品を売られることに抵抗を持つのではない。冒頭ではそれに触れずに、後段でそれを持ち出すことによる狡猾さ、不誠実さに抵抗感を持つのだ。営業に従事している演習参加者から、商品の買ってもらいたいという話を持ち出した途端に、抵抗感を受けるという話を聞くことがよくあるが、話法を拝見すると、たいていがこのケースなのだ。
ミーティングの目的が商品紹介だけだったら、「本日は、私の説明を聞いていただいて、質問をしていただいて、ご理解を深めていただければ幸いです」というR(Role 役割)の話法を繰り出せばよい。
目的が、別のお客さまを紹介していただきたいということでれば、「本日は、私の説明を聞いていただいた上で、もしご興味を持ちそうなお知り合いの人がいれば、その方をご紹介いただければ幸いです」とあらかじめお願いしておくのだ。
そして、今日こそ商品購入の判断をいただきたいということであれば、そして、商品によっては、一度のミーティングではないかもしれないが、「先日ご説明させていただいた商品の質疑応答をさせていただき、その上では、本日は、ご購入していただけるかどうかのご判断をいただければ幸いです」という話法の繰り出しをすればよい。
BIGPRは、ミーティングの切り出し方の分解スキルだ。しかし、BIGPRのR(Role 役割)は、誠実性を高める訓練でもある。「誠実性を高めよう」というスローガンをいくら叫んだり書いたりしても、誠実性は高まらない。BIGPRという分解スキル・反復演習によって誠実性が高まるのだ。
※「BIGPRのスキル」は、山口博著『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月。ビジネス書ランキング:2016年12月丸善名古屋本店1位、紀伊國屋書店大手町ビル店1位、丸善丸の内本店3位、2017年1月八重洲ブックセンター4位)で、セルフトレーニングできます。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第34回】
<文/山口博>
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。株式会社リブ・コンサルティング 組織開発コンサルティング事業部長。さまざまな企業の人材育成・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、リブ/コンサルティング組織開発コンサルティング事業部長。。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある
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