2017年1月に就任したトランプ大統領は、選挙中の間、宇宙開発や宇宙政策に関して、あまり具体的な発言はしてこなかった。
今年3月に発表された2018会計年度予算案では、NASA全体の予算は2017年度と比べて1%弱の減少とされ、大幅なカットはまぬがれている。内訳を見ると、かねてよりトランプ大統領が敵視していた地球温暖化や気候変動に関する予算や、教育に関する予算は大幅減となっているが、一方で火星探査など、宇宙探査の予算は増えている。
その中で有人宇宙飛行については、オバマ時代から一部中止されたものはあるものの、大半の計画をそのまま継続することになり、予算もそれなりに十分な額をつけるとなっている。目新しさはないが、SLSもオライオンもすでに開発が進んでおり、今さら大きく変更できる余地もなかったのだろう。
とはいえ、流されっぱなしというわけでもないようで、トランプ大統領が(どこまで本気かはわからないものの)有人宇宙探査に対する熱意を語ることもあった。たとえば今年2月28日に行われた議会演説の中では、「遠い世界に米国人が足跡を刻むことは、たいそうな夢ではない」と、抽象的ながら有人宇宙探査に触れている。
トランプ大統領が日付を含め、有人宇宙飛行についてオバマ時代とは違う、新しいことを指示したのは今年2月のことだった。NASAに対し、2021年以降に予定されている有人月飛行計画を前倒しして、自身の任期中に間に合わせることができないか、と検討を要請したのである。
2017年2月28日、議会で演説するトランプ大統領 Image Credit: The White House
2010年代に有人月飛行が、20年代には有人火星飛行が実現?
オバマ政権化で開発が始まったSLSは、今のところ2018年に初飛行が予定されている。これは安全性を重視して無人で行われることになっており、この飛行が成功すれば、2021年にいよいよ宇宙飛行士が乗ったオライオン宇宙船を搭載して、月へ向けて打ち上げるという計画になっている。
しかし2021年というと、トランプ大統領の現在の任期が終わる年でもある。任期中に間に合わせるためには2020年中に、2期目を目指すための話題作りに利用するためには2020年の前半までに実施する必要がある。
そこでトランプ大統領は、2018年に予定している無人飛行を中止し、初飛行でいきなり宇宙飛行士を乗せて飛ばせないかと考え、NASAに実現の可能性を検討させている。
そして、NASAがまだそれを検討中の最中に飛び出たのが、今回の宇宙飛行士との交信イベントでの発言だった。
トランプ大統領はこの中で、まず宇宙飛行士に「有人火星飛行はいつ実現できるのか」と訪ねた。それに対して飛行士は「それはあなたが先日指示したように、2030年代になります」と答えている。
「先日指示したように」とは、トランプ大統領が今年3月21日に署名、発効した2017年のNASA法(NASA Transition Authorization Act of 2017)の中に、「2030年代に有人火星飛行を目指す」と書いてあることを指している。つまり誰に聞くまでもなく、トランプ大統領は自分自身で実現の目標日を指示していたのである。
それを知ってか知らずか、トランプ大統領はそれに対して「私の1期目、遅くとも2期目の任期中に人を火星に送りたい」と回答するという、いかにもトランプ大統領らしいエピソードとなった。