それでも、日本のモノづくりの技術が海外から高い評価を受けていることは、自他ともに認めるゆるぎない事実である。しかし、ふたを開けてみれば昨今、多くの日本企業関連工場が軒並み閉鎖している現状がある。シャープが築き上げた“世界の亀山ブランド”が崩壊した時、心の底から日本のモノづくりの将来を心配した。
そしてこのほど、日本の技術流出問題に追い打ちをかけるかのごとく、東芝が半導体分門を売却する方針を打ち出した。その売却に対し入札に名乗りを上げているのは、世界のトップ企業らである。東芝の半導体メモリには、日本の技術と努力の歴史が凝縮されているため、政府は国内企業に入札参加を促し、海外への流出を阻止しようとしているが、このような動きが鮮明になるほど、日本国内の焦りと海外企業の勢いをまざまざと見せつけられている気分になる。
父の会社には「大きい会社よりも小さい会社」という掛け軸がかかっていた。開業当初からあったその一文の意味は、ホコリと油にまみれた工場最後の日になっても、筆者には意味が分からなかったが、今こうして日本の技術力の尊さと向き合って、ようやく腑に落ちた気がする。
「小さい会社」は、技術を生み出す最高の場なのだ。現場第一主義で、行動までのスピードが早い。日本の技術力が低下している昨今、今こそフットワークの軽い中小・零細企業が活躍する時ではあるが、残念なことに、その多くは姿を消してしまっている。
目の前だけのリスク回避や利益追求によってなされた零細企業に対する過小評価や、技術流出に対する防御策の甘さは、今、日本の製造業界に暗い影を落としている。「日本ブランド」を謳いながらも、海外で作られる日本製品に一番納得していないのは消費者よりも、日本のモノづくりを支えてきた工場マンなのかもしれない。
<文・橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
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