守衛や作業員は、ドライバーからすると大切な取引先や荷主の顧客の従業員ということになる。
これら理不尽な対応を相談する先は、ドライバーにはどこにもない。当然、自分の会社に掛け合っても現状は変わらないと理解しており、すでに我慢も業務の一部となっているため、こういった事実を報告しないドライバーがほとんどだ。
父が筆者のトラック同乗を度々許したのには、理由があった。
トラックの中に大きなヘルメットをかぶった子どもがいると、取引先の態度が若干和らぎ、少なからず会話が弾むんだとか。
取引先に到着する間際、そのゲートに入る直前の信号では、いつも父からこんな練習をさせられていた。
「いつもお世話になっております」。
冗談が通じる小規模な得意先の前では、それに「お仕事ください」がつき、笑顔が足りなければ、何度だってやり直しをさせられた。もちろんトラックから降りることはなかったが、笑顔で話しかけに来てくれるおじさんらを前に、ちゃんと「営業」できたことがうれしかったのを覚えている。
恐らく守衛という立場も、毎朝毎夕、何度かけても返ってこない作業員への挨拶に悲しく辛い思いをしているのだと思う。会社の作業員も、きっと上司との兼ね合いや、上の会社からの圧力にストレスが溜まり、笑顔で挨拶を返せる余裕がなかったに違いない。その後、父が工場を閉めることになり、「上」だの「下」だのと考えなくなってから初めて気付いたことだ。
同じくして、トラックドライバーも、血が通った人間である。1人で長距離を走るゆえ、むしろ、人間の持つ冷たさ温かさには敏感人が多い。名前で呼んでくれるだけでも心は大きく動くし、手積みの荷物は軽くなる。
物流は「流れ」である。物を流しているのは、現場の心だ。互いの状況や立場を察するだけでも、その流れはまた少し円滑になるのではないだろうか。
<文・橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
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