春こそ要注意!? 脱サラ起業・ママ起業志望者が陥りがちな過ちワースト3

2.自分の都合で売上見込みを立てる

 この見出しだけでは分かりにくいかもしれませんが、起業希望者の中にこのタイプの人は本当に多いです。具体的に説明していきます。  例えば、主婦の方がいわゆるママ起業を目指すケースで、手作りアクセサリーをネット経由で販売するというビジネスを考えているとします。このような人に商売で一番大事な売上の根拠を尋ねると、よくこんな答えが返ってきます。 「私が1日に作れる数って〇〇個くらいなんです。1個〇〇円で売るとして、掛けると1日の売上が〇〇円、1か月だと〇〇円くらいですかねー」  これは一見理屈が通っているように見えて、実はまったくダメな考え方です。私はこのような答えを聞くと「作った数が必ず全部売れると、どうして分かるんですか?」とできるだけ優しく訊くようにしています。多くの人は質問の趣旨が分からず、だいたいキョトンとしていますが。  これが「自分の都合で売上見込みを立てる」という典型例です。前項で「経営者の報酬は顧客が決める」と述べましたが、その報酬の元となる売上を決めるのも、商品を買ってくれる顧客なのです。そして、顧客は供給側の都合に合わせて商品を買ってくれたりはしません。  賢明な読者のみなさんはもうお分かりだと思いますが、作った数がすべて売れなければ、それは在庫として残ります。在庫は売れてコストを回収することで初めて価値が出るのであって、在庫のまま留まっていれば材料費や倉庫代がかかっているだけの“金食い虫”に過ぎません。 「お客さんは自分が思ったようには行動してくれない」という感覚は、頭では分かっていても実際に経験してみなければ骨身に沁みないものです。しかし、ここを意識して市場や顧客と対話しようとするのか、しないのかは、ビジネスを成長させる上で大きなポイントになると思います。

3.「資金繰り」の恐ろしさを知らない

 「経験してみなければ骨身に沁みない」ことと言えば、資金繰りの怖さもそのひとつです。特に脱サラして起業する人はそれまで安定して給与が入ってくることに慣れているため、資金繰りと言われてもピンと来ない人が案外多いものです。  私は講師として登壇する起業セミナーで、「経営者になって最初に感じる恐怖は、お金が入って来ないのにお金が出ていくことですよ」とよく言います。実際、私も自分の事務所を設立した当初は、見る見るうちに預金通帳の数字が減っていくので背筋が寒くなった覚えがあります。  資金繰りを楽にするためには、起業当初の出費をできるだけ抑える必要があります。そのためには、家賃や人件費といった固定費をかけないことが大事です。ところが、起業時は見栄や興奮から不必要に広いオフィスを借りたり、雇わなくていい人を雇ったりと、身分不相応な投資をしがちです。それが毎月の支払に跳ね返って経営を圧迫するというのはよくある話です。  また、資金繰りで意外と盲点になるのが社会保険と税金です。スタートアップ段階で売上も十分に上がらない中、サラリーマン時代は会社が折半してくれていた年金と健康保険料を全額払わなければいけないのは、けっこう負担感があります。また、税金は赤字なら払わなくていいと思うかもしれませんが、法人の場合は均等割の法人都道府県民税と法人市民税が合計で7万円程度かかります。会社がまだ小さい段階では、これも意外と痛い出費になります。  以上、起業希望者が陥りがちな過ちについて見てきました。  もちろん、これらを注意しておけばビジネスの成功間違いなし、というほど単純ではありませんが、夢と願望だけで突き進むよりははるかに有益な準備ができるはずです。業には、自分で自分の人生を切り拓いていくという何物にも代えがたい魅力があります。起業を考えている方にとって、このコラムが少しでも有意義な情報になれば幸いです。 <文/多田稔> 【多田 稔】 中小企業診断士、経営アナリスト。「多田稔中小企業診断士事務所」代表。経営コンサルティング・サービスに携わる傍ら、「シェアーズカフェ・オンライン」などで企業分析・会計に関する記事を執筆
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