ここでは朝5時には起床し、食事の時間、クスリの時間、掃除など寺のために働く時間が決まっていて、夕方には宿舎の外から鍵を閉められて、21時にはみんなで雑魚寝する。
最初は禁断症状や規則的な生活がきつく、暴れる者もいるようだが、目的を共有する仲間と寝食を共にし、徐々に連帯感が生まれる。よりクスリから抜け出したい思いが強くなる。
仕事は様々あり、仏像の製作の手伝いや掃除、畑仕事など多岐に渡る
しかし、戻った先で悪友にそそのかされることもあって、完全にクスリと断ち切れるとは限らない。僧侶は話す。
「この寺で更生できるのは人生で一度だけ。厳しいようですが、一度変わりたいという意志を示したわけですから二度目はないのです。残念ながら100%の人が立ち直れるとは限りません。ここを出るときは生まれ変わっていたとしても、やはり生活の環境がつきまといます」
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僧侶が食事を終え、余ったものが施設入所者の食事になる。麻薬を断ち切っているこのとき、彼らの食欲は強くなり、食事だけが楽しみな時間になるという
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食事を終えると全員で僧侶の食器などすべてを洗う仕事が待っている
この寺院を訪れてまず驚くのは、廃人と化した患者たちがいるのではないかということが見事に覆されることだ。にこやかに挨拶をされ、外国人記者に興味を示す。とても純粋な人たちに見える。タイ式漢方薬で体の毒を吐かされるとき、彼らはみんなでこぶしをぶつけ合い鼓舞し合う。先輩は新しく入ってきた者たちにうまく吐くにはどうするかを教え、療養所のシステムを教える。外から来た我々も彼らの連帯感を肌で感じた。
だからこそ、ここにいる間は誰もがクスリをやめられると信じている。そして確信すらしている。筆者にもそう感じるものがあった。
ここの治療を受け、麻薬から抜け出した者はときに手土産を持って再び施設を訪れる。
この寺院の療養所はすべて寄付で賄われているので、卒業した人も感謝を込めて再訪し喜捨する。ただ、失敗した者は二度とここを訪れない。成功例しか目の前に見えないため、療養中にかつての生活の場に戻ったときに本当に気をつけなければならないことがわからない。療養する彼らの本当の戦いはここにはない。この先にあるのだ。
⇒【画像】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=134867
タイ伝統医学の療養のひとつにある薬草サウナ。一般人も自由に入ることができる
筆者が取材を終えて立ち去るとき、ちょうどその療養所を去る20代の若者がいた。偶然、筆者の自宅から数キロのところに住んでいるとのことだった。父親が迎えに来るのだと子どものように目を輝かせていた。そんな笑顔を見ると、ちゃんとやり直してほしいと心から思う。SNSのアカウントを教えてくれというので教えた。3か月が過ぎた今もまだ連絡はない。果たしてちゃんとまっとうに生きられているだろうか。本当に心配である。
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
@NatureNENEAM) 協力/
タムグラボーク寺>