NMVの日本語グループは同じNMVのほかの言語グループと比較しても優れているとされる。毎年5月に入会してもすぐに表舞台に立つのではなく、実に半年にもおよぶ期間、勉強会に時間を費やす。まだ3年目の古川さんにはそのときのことが昨日のことのように思い出せる。
「週に数回、同期の家に集まって勉強会をしました。最初は仏教の言葉どころか漢字すら読めません。ひとつひとつ頭に叩き込んで憶えていきました」
プライベートの時間も使い勉強を行う。ときにはくじけそうになるが、励まし合って脱落者もなくデビューに向けて突き進む。(NMV日本語ガイドグループ提供写真)
漠然と外枠だけを憶えるだけではいけない。連綿と続く歴史を把握する必要がある。国立博物館の展示物は主に歴史に関係した美術品になる。仏像の顔つき、手の形ひとつ取っても、歴史背景を知っていないと芯を理解することはできない。しかも、現代ならではの文明の利器を使うことは許さない。タイ在住17年、海外暮らしも30年を超える野村さんがぴしゃりという。
「インターネットの情報は認めません。ちゃんと考察された文献などからしっかりと調べなければならないのです。間違った情報を訪問者に話してしまう。すると、その人たちにとっては私たちの言葉がすべてになりますから、間違った知識でタイの歴史を認識することになってしまいます」
デビューの第一歩となるバッジを手に入れ笑顔になるガイドの卵たち。まだまだ一人前までには時間がかかる。写真一番左の女性が古川典子さん。(NMV日本語ガイドグループ提供写真)
そんなことがないよう、学者がしっかりと調査し考察した資料のみを使う。その点でいえばNMV日本語グループが所有する蔵書はかなりのレベルになるという。これらを使って自主的に勉強をし、先輩に細かなところをチェックをしてもらい、最後に自動車運転免許教習所の卒業検定のように自らが作成したガイド原稿を元に案内を実施し、お墨付きをもらえばデビューできる。
「6月から勉強を始め、12月に合格すればガイドのバッジをもらい、1月から順次デビューします。しかし、それで終わりではありません。ガイドは3パートに分けてチームで行いますが、それがすべてできるようになるまではまたさらに勉強をしなければなりません」(古川さん)
運営こそシステマティックではあるが、ガイドの内容はすでにある原稿を読み上げるわけではない。「台本ではなく、ガイド自身の言葉の方が聞いてもらえる(野村さん)」ことから、ガイド各自が自分だけの案内内容を作り上げていく。
そして、デビュー後も勉強を続け、すべてのパートができるようになってやっと一人前になる。このレベルに達するまでには入会から2年近くの歳月がかかる。
デビューまでに自分たちで勉強し、ガイド原稿を作っていく。(NMV日本語ガイドグループ提供写真)
ここまで徹底しているのはNMV内の他言語ガイドにはない。日本人らしく、全員が一定水準以上のクオリティーを保つ。ガイドひとりひとりが違うテイストで案内を行いつつ、押さえるべきところは押さえることを重要視する。
タイの博物館は総じて管理が悪いところは否めない。タイ人はあまり歴史にこだわらないのか、世界遺産がタイ国内に存在しながらも、古いものを徹底的に調べて大切にするということが案外少ない。そのため、博物館は多くが展示物の羅列で、そのものの背景をただ見るだけではなかなか理解できない。そこを補うのがNMV日本語グループというわけである。