タイで起業を思いついたある元バックパッカーの甘すぎる目論見

「怪しげな商売」でも成り立つ時代は終わった

 和食ブームのタイは同時に日本旅行ブームでもある。札幌の雪まつりから火がつき、日本政府も2013年7月からタイ人の短期滞在はビザ免除とし、今に続く。旅行ブーム以降は日本人が好む本物の味つけの店でもタイ人がたくさん入るようになった。以前のようにタイ人向けの味にアレンジした形式だけの時代は終わり、本物の味が要求されるようになっているのだ。そんな業界に料理のさしすせそを今習っている人が参入しようというのだ。

タイ人にもフリーで働く若者が多く、この数年でバンコクではコワーキングスペースを兼ねたカフェが乱立している

 さらに、タイは経済発展に伴い法的な整備もしっかりとしてきている。  営業許可証や労働許可証がないと警察などによる摘発を受ける。労働許可証を得るには外国人ひとりに対し資本金200万バーツ以上(約600万円以上)、タイ人従業員4人以上の雇用という条件を満たした上で起業しなければならない。また、タイでは一般的な会社は外国人の株保有は半数未満までしか認められず(実質的に全株の49%程度)、タイ人パートナーを用意しなければならない。ときにそのタイ人パートナーに会社やカネを騙し取られることもある。個人での企業は思いのほかハードルが高いのだ。  タイは東南アジアらしい緩さが消えつつあり、その点に関して認識の甘い日本人もいまだに少なくない。契約のけの字も知らなかった森町氏はなおさら危険だ。本物の味をちゃんとした経営管理の下で提供しなければならないのが今のタイであり、森町氏はその点を理解していなかった。

さらなる失敗が襲う……

 紆余曲折がありつつも、最終的に森町氏は日本料理の総菜製造・販売を始めることに決めた。  郊外のショッピングセンターでブースを間借りし、そこで販売を行う。森町氏はさらに失敗を重ねてしまう。  意外かも知れないが、タイは日本でいうところの食品衛生法などがかなり厳しいのだ。  その点の法令を調べもせず、セントラルキッチンのためにと物件を契約したが、食品工場としての認可が下りないことがわかった。実は森町氏の知人はその点に関して開業以前に注意を促したというが、どういうわけか彼はそのことを無視したのだ。  そして、この失敗がのちの結果に強く影響を与えてしまうことになる。
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