注目のメディア「ワセダクロニクル」編集長が語る、調査報道にこだわる理由

――「ワセダクロニクル」の取材記者には学生ボランティアもいると聞きました。今回の記事で募集も増えたのではないでしょうか? 渡辺:学生は現在20人いますが公募はしていません。マスコミ塾のノリで来られても困るので基本、すべて研究所のメンバーによる推薦で選んでいます。報酬や単位は出ませんが、ジャーナリズムの世界で働きたいという学生で、非常に皆さんモチベーションは高いです。  恥ずかしながら、僕は学生時代、けっこうチャランポランでしたが(笑)、僕が記者になった当時と比べて、今はメディア組織から一記者への締め付けが強いと聞きます。これからはジャーナリストもしっかり教育しないといけない。資料の分析や実地調査のやり方を教えつつ、座学的なこともやって、取材のノウハウや理念を教えています。なぜ大学を拠点にしているかというと、こうした教育の意図もあるからです。 ――今のメディア厳しい状況はどう見ていますか? 渡辺:例えば朝日新聞は「総合メディア企業を目指します」と言ってますよね。10年前には「ジャーナリスト宣言」と、華々しく宣言していたのに、あれはどこいったの? って思いますよ。もちろん、そこには複雑な要因があるでしょう。しかし経営状況が苦しいときこそ、組織は試されます。 ――取材費も充分に集まりました。これからの活動について教えてください。 渡辺:実は今でもお金が十分に集まったとはいえないんです。たくさんの寄付をいただきましたが、これで給料が支払えるわけではありませんから。継続的に5年、10年続けていくためにはまだまだ資金不足です。ただ、海外視察のとき、韓国の「ニュース打破」の方に話を聞いたら、当初、彼らは1回だけ調査報道をして解散するつもりだったんです。ただ、それが大反響で、市民が解散しないでくれと。それで、さらにもう一発いったら、また寄付が集まり、解散せずに今日に至るという。ある意味、理想的ですが、やはり大事なのは質の高い調査報道の積み重ねでしかないと思うんです。 ――次の取材テーマは決まっているのでしょうか? 例えば、寄付金と一緒にそういう取材テーマを募ったりすることは考えていませんか? 渡辺:確かに寄付金とテーマを一緒に募る方法もあるとは思います。ただ、我々も中長期的なちゃんとした計画があるわけではなくて(笑)。じゃあ、この次は何をするか、それは本当にモノにできるのかとか、とにかく目の前の物事に集中するようにしています。  これは持論ですが、物事に対してマーケティングから入らないほうが良くて。今、世間でこれが流行っているから取り上げようではなく、普段の人間関係とか、動物的直感を信じたほうが面白くなるんです。自分の「ピコピコレーダー」がきっと皆さんあるんです(笑)。もちろん、独りよがりでもダメですが、体内に蓄積したデータだったり、そこの感性を信じたりしないと。読者の声に耳を傾けようとするのも大事だけど、そこの加減をうまく取らないといけない。 ――では、今後の方向性について教えてください。 渡辺:第一シリーズに関しては、「買われた記事」が横行するようなメディア状況が変わるまでは続けたいですね。もちろん、ステマは違法ですが、とりわけ患者さんが読むような医療記事では絶対にやってはいけない。これを地方紙や経済紙などのメディアのみなさんが理解して、少しでも社会状況が変わってほしいですね。元新聞出身者としては、今からでも既存メディアがこのことを取り上げてくれたらと思ってます。その他にも6、7テーマ取材していますので、成果物を積み重ねていきます。 【渡辺 周】 わたなべ・まこと◯1974年、神奈川県生まれ。大阪府立生野高校、早稲田大学政治経済学部を卒業後、日本テレビ入社。2000年、朝日新聞入社。高野山真言宗の資金運用や製薬会社の医師への資金提供問題などを担当。2016年3月に同社退社、現職に 「ワセダクロニクル」 http://www.wasedachronicle.org/ <取材・文/井野祐真(本誌)>
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