ビジネス研修などでコミュニケーションというと、よく「何を言った」かよりも「何が伝わった」「何が理解された」が大切ですよという話になります。
それももちろん大切なのですが、産業医である私が感じる上手なコミュニケーションとは、どちらかというと相手との関係性の強化、相手の主体性の発揮、メンタルヘルス不調の予防という観点に立ったもので、コミュニケーションの中身よりもコミュニケーションの後に残った感情にフォーカスしたものです。
例えば調子の悪い部下が上司に「ちょっといいですか?」と声をかけてきて、上司が対応した結果、翌日に「あんな、上司に相談するんじゃなかった」というのではなくて「相談しに行ってよかった」と思ってもらえるのが、上手なコミュニケーションです。
武神健之氏
長時間労働は睡眠時間を短くし、そのために心身の健康障害リスクが高くなることはさまざまな医学的、疫学的な調査で証明さてれいます。なので、私は残業がいいことだとは思いません。しかし、同時に、全ての残業が「悪」だとも言い切れないとも考えます。
繁忙期には残業が発生してしまうことはしょうがない事実ですし、人生の中で一時的に仕事に没頭することが、多くを学び、その後の職業人生の糧になるという意見もあります。
働き方改革の議論として、働く時間、残業可能な時間の上限を論じるのであれば、ぜひ、同じ時間働いたとしても、心身の不調や過労死につながらない職場環境や職場のストレスが減るようなコミュニケーションについても考えてほしい。そう思わずにはいられない今日この頃でした。
<TEXT/武神健之>
【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。最新刊『
職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』が3月18日発売予定。著書に『
不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『
産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある