「仏版トランプ」ルペンとトランプ大統領の決定的な違いは“カネ”!?

ルペンのアキレス腱

「細かく言えば、トランプ氏は妊娠中絶に反対で、ルペン氏は容認。『同性婚は違憲』と主張していたトランプ氏に対して、ルペン氏は同性愛についても容認派という違いがあります。しかし、決定的に異なるのは、資金力です。不動産王のトランプ氏に対して、ルペン氏にはお金がない。父であるジャン=マリー・ルペン氏が国民戦線の党首を務めていた時代に、反国民戦線運動が巻き起こって以来、フランス国内の銀行が資金を貸してくれなくなったのです。  きっかけはジャン=マリー・ルペン氏の、『ナチスのユダヤ人虐殺は第二次世界大戦における些末事』といった悪魔的発言です。2002年にはシラク大統領(当時)とともに大統領選で決選投票にまで進みはしましたが、反ユダヤ主義と人種差別主義のイメージから、その後、猛烈なバッシングを受けることになりました。それで、党の資金はどんどん枯渇していったのです。娘のルペン氏は“脱・悪魔化”を掲げて、負のイメージの払しょくに努めてきましたが、国内の金融機関はいまだ総スカンの状態。そのため、国民戦線はロシアの金融機関から多額の借金をしている状況なのです」  過去の英ガーディアン紙の報道によれば、国民戦線はKGB(旧ソ連国家保安委員会)出身のロシア人が所有するキプロスの会社から200万ユーロ(約2.5億円)、さらにモスクワのファースト・チェコ・ロシアン銀行(FCRB)から940万ユーロ(約11.5億円)を借り入れていたという。ところが、FCRBは昨年7月にロシア当局から銀行免許の停止措置を受けることに。貴重な資金源を失われてしまったがゆえに、ルペン氏は欧州議会の資金を流用するに至ったのでは?とも言われているのだ。

どちらが勝っても大きく変わる

 さらに、大統領選そのものを比較すると、フランスの特殊性が浮かび上がってくる。 「米大統領選はどこまで行っても共和党vs民主党という既存政党の戦いでしたが、今回のフランス大統領選は今やルペン氏の国民戦線vs無所属のマクロン氏という構図。共和党のサルコジ政権、社会党のオランド政権という、二大政党の政権下で一向に生活がよくならなかったため、国民は既存政党に愛想を尽かしてしまったのです。今後、フィヨン氏(共和党)が巻き返してくる可能性もありますが、フランス政治の主流は、完全に“非主流派”に移行している。ルペン氏、マクロン氏、どちらが大統領選を勝ち抜いたとしても、フランスの政治は大きく転換するわけです」  なお、フランス・パリで生まれ育った20代男性によると、「フランスの同級生はSNS上でしきりに、『みんなで投票に行こう』と呼びかけている」とか。背景にあるのは、イギリスのEU離脱。国民投票で離脱派が過半数を占めた一因として、若者の投票率の低さが指摘されたため、「フランスは同じ轍を踏むまい」と行動する若者が増えているという。当然、目的は“ルペン大統領”の誕生を阻止すること。その反ルペン運動の延長線にあるのか、「オバマをフランス大統領にしよう」と呼びかけているグループも出てきているとか。  スキャンダル続出なうえに、レースをけん引する候補者はいずれも非主流派。ロシアも介入してきて、まさかのアメリカ前大統領の参戦? EU離脱にも繋がりかねない重要な選挙である点を差し引いても、フランス大統領選がさらに熱を帯びることは間違いない。 <取材・文/HBO取材班 photo by Rémi Noyon via flickr(CC BY 2.0)
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