以上が表情分析結果の大枠です。そして、その他のことについて推察できることを補足します。
時折、目線が逸らされる動きと話しながら手を宙に動かす動きが、本動画に散見されます。
例えば、「父親が数日前に殺された。」という発言をする前に目線が逸らされます。その後に続く発言において、手を宙に動かしています。これらの動きは、私たちが「今・ここ」で言葉を紡ぎだしているときに生じる現象です。
つまり、ハンソル氏は本動画を撮影するときにメッセージの大枠となるものは予め用意していたと思われますが、具体的な言葉や単語の使いまわしは、撮影している瞬間に紡ぎだしていたと考えられます。
動画の27秒から32秒の間、ハンソル氏の口元が隠れ、音声も消えているため、どんなことが語られたのかわかりません。しかし、31秒から32秒あたりにかけてハンソル氏の口角が引き上げられ、目の周りの筋肉が収縮しています。これは先の意識的に形成される笑顔とは違い、本心から自然に生じた笑顔の表情筋の動きです。何かポジティブな気持ちになるようなことを語っていたのだと考えられます。
このことをハンソル氏の言語情報と合わせて考えると、
「父親が数日前に殺された。」→「今、母親と妹と一緒にいる。」→「…に感謝している※」→27秒から32秒のブランク→「状況がよくなることを願っている」(※we are very grateful to…の後、音声が消える)
という流れから、感謝の相手に対する言及、特に心からの笑顔が出てくる感謝・信頼している人物・行為に対する言及があったのではないかと推察します。
<文・清水建二>
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマの監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。