「イングランド銀行を潰した男」「ヘッジファンドの帝王」などの異名をとるジョージ・ソロス氏(Photo by boellstiftung)
アップルの音声アシスタント「Siri(シリ)」の基盤づくりにも寄与したババク・ホジャット氏が、100%人工知能(AI)に任せるヘッジファンド(Hedge fund)を始めたという。株取引において人間の感情は邪魔なのか、投資家の間でも話題になっている。また、ヘッジファンドといえば、トランプ氏が勝利した2016年11月の米大統領選以降の株高局面で、世界最大のヘッジファンド「クォンタム・ファンド」の創業者ジョージ・ソロスは1140億円もの損失を出したと報じられるなど、ヘッジファンド周辺のニュースが賑やかだ。
そもそも、普通の個人投資家にはほとんど接点のないヘッジファンドだが、いったいどういうものか。ヘッジファンド事情に詳しいフィスコ・マーケットアナリストの田代昌之氏はこう話す。
「投機的な売買や高度な金融工学などさまざまな手法を駆使し、利益を追求する投機的なファンドのことです。公募で広く一般投資家から資金を集める投資信託とは異なり、ヘッジファンドは富裕層や機関投資家から私的に資金を集めるのが特徴です」(田代氏)
もともとヘッジファンドは、トレーダーやディーラーとして活躍し、数億円~数十億円といった巨額の自己資金を運用していた“巨大な個人投資家”のような人に、富裕層や機関投資家が資金の運用を任せ、ますます巨大になっていくようなケースが多いという。
「ヘッジファンドはリターンの目標も異なります。通常の投資信託は日経平均などのベンチマークを上回ることを目標にしているため、仮に運用実績がマイナスだとしても、ベンチマークを上回ればいい。例えば、日経平均をベンチマークとする投資信託だと、日経平均が-10%の年は、-10%をわずかでも上回れば合格点ということ。それに対しヘッジファンドは、市場が上がっても下がっても、投資家の投資元本が下回ることを避け、常にプラスの『絶対的収益』を追求することを至上命題としているのが特徴です」(田代氏)
そんなヘッジファンドは、投資戦略によって8つほどに分類される。
「もっとも有名なのが、割安株を買うのと同時に割高株を空売りする『ロング・ショート』戦略です。また、経済指標や政治的な見通しを重視し、マクロ指標の予想に基づいて投資する『グローバル・マクロ』戦略も王道的手法として知られています。クォンタム・ファンドや、ブレバン・ハワードが、グローバル・マクロの代表です」(田代氏)
米大統領選のように世界経済の流れが大きく変わるとき、グローバル・マクロ戦略は大きな変化が起きやすい。ジョージ・ソロス氏は米大統領選挙でクリントン氏を支持していたため、今後の見通しを誤ったことが巨額損失につながったと見られている。
また、ヘッジファンドは日本株市場でも短期的な売買でも存在感を示すことが多い。
「日経平均は一部の銘柄の影響を大きく受けやすいことを利用して、CTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー)という戦略のヘッジファンドが活発になることがあります。例えば上昇局面のときにファーストリテイリングやソフトバンクなど日経平均への寄与度の大きい銘柄や日経225先物に大量の買いを入れて相場を急に上昇させたり、逆に、下落局面に大量の売りを入れて相場を急落させ、利益を狙ったりするのです」(田代氏)
日本株市場でそういった短期的な“仕掛け”をするのも、ヘッジファンドの特徴だ。ヘッジファンドは日本株市場だけでなく、以下のような戦略を用いて世界中のさまざまなマーケットで資金を運用している。