40代リーマンのバイブル『ツルモク独身寮』とは何だったのか?【あのサラリーマン漫画をもう一度】

ツルモクの続編は死んでも描かない

――あんなに人気があったのに3年で連載が終わってしまって、残念でした。 窪之内:正直、まだ全然人気あったので、いくらでも連載は続けられたんですよ。寮という舞台を守って、キャラクターを入れ替えながら話を続けることは出来たんです。でも、これ以上続けるとイメージがつき過ぎちゃうし、精神的にもとにかく一回リセットしたいという気持ちが強くて。 ――編集部からはかなり引き止められたんじゃないですか? 窪之内 いや、そんなに引き止められなかったと思うんですけど。問題児だったので(笑)。続けていたら、精神的にも肉体的にもやばかった。それでお休みをとって、次に連載した『ワタナベ』は、ツルモクとは全然違うアプローチにした。自分はツルモクだけの人じゃないよ、というのをやってみたかった。 ――一時期は「ツルモクのことを思い出すのも嫌だ」というくらい、ツルモクの話題を避けてましたよね。 窪之内:30代の頃は本当に嫌ってました。実はこれまでツルモクをちゃんと読み返したのって2、3回しかないんですよ。読み返せない。ヒットした作家の宿命だと思うんですけど、いい作品が出来て一回バーンと売れちゃうと、そのイメージがずっと付いちゃって、それを超えるものをみんなに期待される。自分がそれにどれだけ応えられるか、そのプレシャーの中で30代は生き続けていましたね。でもこの年になって、ようやく受け入れられるようになった。 ――ファンは当時、ツルモクと同じような路線の作品を期待したと思います。 窪之内:尾崎豊さんの「15の夜」とか「十七歳の地図」とか、青春もので出てきた人の十字架だと思うんです。青春もので売れちゃうと、自分が30~40代になった時にそれを求められても、自分の中にそのリアリティはもう無いわけで。もう二度と描けない。一回こっきり。 ――ツルモクの続編は絶対に描かないと公言されていますが、いまでもその気持ちに変わりはないですか? 窪之内:出版社から「ツルモクの続編を描いてみない?」っていわれることがあるけれど、死んでも描かない。これはこの終わり方のまま、この余韻のまま楽しんでほしい。続きを描いちゃうと自分の中の大事なものを壊しちゃう気がして。成長したおじさんたちのリアリティを描いちゃうと、なんか切ないっすよ。 ――でも、ツルモクと同時期に連載していた柴門ふみさんの『東京ラブストーリー』は、後日譚が最近発表されたんですよ。単行本にもなりました。永尾完治と赤名リカが50歳になっているという。 窪之内:そうなんですか?確かに連載時期は全く一緒ですね。柴門さんとはお会いしたことは無いですけど。当時、パーティーとかに一切出なかったので。
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大衆的であり続けるということ
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