無害な「斑点米」のために農薬を過剰散布。「農産物規格規定」は農家にも消費者にも大迷惑

 日本人の主食として大変なじみ深いコメ。ところが、カメムシが稲もみの汁を吸うことで生じる「斑点米(着色粒)」の混入でコメの等級が落ちるため、水田に繰り返し農薬が散布されているという。

1000粒に2粒混入しただけで等級ダウン

米「カメムシの防除は、農薬の過剰使用を農家に強いている。斑点米の被害よりも、農薬散布の薬剤代の方が高い」  そう指摘するのは秋田県大潟村のコメ農家、今野茂樹氏だ。  コメを市場に流通させるには、農産物検査法に従って検査を通す必要がある。コメは「農産物規格規定」に従い、変形や欠け・割れなどをともなう「被害粒」や異物の混入が許容されているが、カメムシが汁を吸うことで米粒が黒く変色する「斑点米」については特に許容値が厳しい。  1等米の場合、被害粒や異物などの上限は15%だが、そのうち「斑点米」はわずか0.1%。つまり1000粒に2粒混じっただけで等級が落ちてしまう。1等と2等の価格差は玄米60kg当たり600~1000円。米価の下落に悩む生産者には大きな差だ。  そのため、農家はカメムシによる斑点米が出ないよう、田んぼに殺虫剤を散布することになる。とりわけネオニコチノイド系農薬は、ミツバチ大量死の原因ではないかと疑われ、さらに人への健康被害も懸念されている。

有機農家「農薬はカメムシの天敵まで殺してしまう」

 そもそも農薬散布によるカメムシ防除は効果があるのか。栃木県野木町の有機稲作農家、舘野廣幸氏は「多くの水田で毎年農薬が使われているが、害虫は一向に減らない」と指摘する。そればかりか「農薬が害虫を増やしている」と言い切る。
舘野廣幸氏

「農薬を使わない有機栽培でカメムシは大発生しない」。11月5日に都内で行われた集会(コメの検査規格の見直しを求める会主催)で講演する有機稲作農家の舘野廣幸氏

 舘野氏によれば、害虫を殺すために農薬を使うことで、害虫の天敵であるトンボ、クモ、カエルなども死ぬ。しかも「カメムシは水田の外からやってくるので意味がない」そうだ。農薬散布で天敵は減り、むしろ害虫が住みよい環境となる。  舘野氏は「カメムシを防除するには、農薬に頼らずとも田のあぜの雑草を5cm程度に刈るだけで良い」と指摘する。

「斑点米」は食べても無害。単なる見た目だけの問題

 コメの生産者や市民らで作る「コメの検査規格の見直しを求める会」は今年6月、農産物検査法の斑点米規定をなくすよう農水省に要望。これに対して同省生産局長は「斑点米の規格は消費者のニーズによるもの」と答え、見直す考えを否定した。  このように非常に厳しく設定されている斑点米規定だが、輸入米については1%、つまり1000粒につき10粒まで許容され、国産米のような等級分けもない。同会は「ダブルスタンダードだ」と批判している。  斑点米は色彩選別機で分別でき、万一食べても無害だ。これは見た目だけの問題で、味にもまったく影響がない。市民団体「反農薬東京グループ」の辻万千子氏は「国民の知らないところで制度が作られている」と話す。わずか0.1%のコメの”見た目”のためだけに、農薬が過剰に使われている。私たちは食を支える農業の実情に、もっと関心を持つ必要がありそうだ。<取材・文/斉藤円華>