「村上隆氏は2007年からロサンゼルス現代美術館を皮切りにスタートした回顧展で、ルイ・ヴィトンとコラボレーションした作品を発表しました。美術館の中にヴィトンの限定ショップを開設したところ、大行列ができました。これはヴィトンというブランドのネームバリューが、美術品の価値を保証したともとれるからです」
一方でコレクターにとって安定して高い価値のものを持ちたいという心理もまた真実である。アンディ・ウォーホルや草間彌生といった、評価が固定化された”大家”の作品が常に安定して取引される理由もここにある。投資目的の場合は、こうした“ブランド力”のある作品を購入するという場合が多い。
さらに言うと、近年では純粋に作品についての投資目的だけでなく、ビジネスへの活用を視野に入れてアートを取り入れるケースも増えたという。
クリスティーズでバスキアの作品を落札した前澤氏や、ファーストリテイリングの柳井正氏は、コレクターとして有名だ。柳井氏は、コレクションとしてアンディ・ウォーホルの作品を購入。ユニクロの商品にオリジナル作品に基づいたデザインを、アンディ・ウォーホル美術財団から許諾を得て使っている。
社会的ステイタスのために、美術品を購入し、コレクションする。文化にコミットすることが、自社ブランドのイメージ向上につながると踏んでいるのだ。
アーティスト、ギャラリスト、コレクター。どの立場から見ても、国内の育成環境はまだ伸びしろがある。アートビジネスの成長戦略を描くためにはどう動くべきなのか。
近年、国際的なビジネス展開を狙う起業家が、社会的立場の高い人物との交流を行う際、アートコレクターであることをコミュニケーションツールとして活かす傾向がある。現代アートには政治やセクシャリティ、メディア批判といった、さまざまな態度が内包されている。作品の背景にある思想がメディアとして、コレクターのアイデンティティを規定する。アートのビジネスツールとしての1つのポテンシャルがそこにある。
<取材・文/
石水典子 写真/
M C Morgan>