二日間で審議時間トータル6時間という“爆速採決”。ギャンブル依存症、治安問題などに対して具体的な対策は宙に浮いたままだ
年の瀬押し迫る12月2日午後、「統合型リゾート(IR)整備推進法案」が衆院内閣委員会で採決され、自民党や日本維新の会などの賛成多数で可決した。11月30日との2日間にわたって行われた本案の審議時間はわずか6時間。この「カジノ法案」は事実上初となる「合法的民営賭博」を解禁する歴史的な重要法案だ。それが、たった6時間で可決したのはなぜか。
「11月30日の審議は呆れるくらい中身がない質疑応答でしたね」
そう話すのは、パチンコジャーナリストでカジノ問題にも造詣が深いPOKKA吉田氏だ。
「質疑に立った自民党のある議員は、『時間が余った』と言って、自身出身の長崎県五島列島の話をしたり、般若心経を唱え出したり……。もはや質疑とは呼べませんが、そんな状況で細田博之総務会長が回答したりね。アホらしくなって、途中で観るのをヤメました」
社会問題化しているギャンブル依存症、暴力団の介入やマネーロンダリングなど、カジノ合法化によって生じるおそれがある“副作用”の具体的対策が示されるべき場で、般若心経を唱えられては話にならない。
だが12月2日、打って変わって民進党の緒方林太郎議員が政府側を厳しく追及した。賭博罪阻却の要件である「違法性阻却の8項目」についても言及。8項目は、以下の内容を指す。①目的の公益性 ②運営主体の性格 ③収益の扱い ④射幸性の程度 ⑤運営主体の廉潔性 ⑥運営主体の公的管理監督 ⑦運営主体の財政的健全性 ⑧副次的弊害の防止。
現在、上記の8項目を満たすものは、競馬、競輪、富くじなど、公営ギャンブルのみ。パチンコは建前上賭博には当たらず、風営法の範疇となるため該当しない。
ちなみに同議員は11月18日、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する質問主意書」を内閣に提出しているが、その際政府側はパチンコは賭博ではないと明言している。これには、可決を急いだカジノ法案との整合性を図る意味合いがあると考えられる。
吉田氏は、2日の政府側の対応をこう分析する。
「この日は法務省からも副大臣が来ており、『違法性阻却の8要件』についての言及もあって、 緒方議員は強く問い質しましたが、政府側と提案者側はかわした。厚労省がギャンブル依存症問題にどこまで対応能力があるとか、 法務省がこの法案で違法性阻却の要件を満たすと考えている、 などの言質があればまだマシでしたが、それすらない。推進派はシンガポールとか、海外の成功例を参考にして、実施法でやるつもりなのでしょう」
一方、法案については野党4党は反発を強めており、公明党内でも意見が割れている。いずれにしろ、成立すれば1年以内に運営ルールを決め’18年には「IR実施法」が定められることになるが、ギャンブル依存症や治安悪化の懸念にも同時に対処する必要がある。
候補地選定も気になるところ。
吉田氏は、「首都圏と大阪は、カジノ法制化が実現すればおそらく候補地になるでしょう」と話す。一部では、第三の候補地として北海道(苫小牧が有力)や九州なども取りざたされている。法案成立は吉と出るか、凶と出るか。’17年の動きを見守りたい。
●ギャンブル依存症への対策
日本にはギャンブル依存専門医が極端に少なく、対策不十分のまま可決は無責任であるという批判が噴出
●経済効果に対する展望
「建設需要や雇用の創出、地域振興、外国人訪日客の増加」(自民党)、「カジノ賭博の解禁で経済成長は邪道」(共産党)
●治安問題への懸念
反社会的勢力や不良外国人の犯罪の温床になりうるという批判に対し、厳正なライセンス制度で対策可能とする声も
◇“カジノ関連株”に注目が集まる◇
パチスロ機械製造、アミューズメント施設の内装、電子マネー決済など関連業種の銘柄の名前に投資家が注目
【POKKA吉田氏】
パチンコを中心にギャンブル問題をカバーするジャーナリスト。パチンコ業界誌『シークエンス』編集長も務める。近著に『
パチンコが本当になくなる日』(小社刊)