舛添都知事にも2400万流用疑惑!相次ぐ政治資金問題、なぜかくも露呈し易いのか?――江藤貴紀「ニュースの事情」

 10月20日の小渕優子経産相、松島みどり法相のダブル辞任を初めとして、大物国会議員のスキャンダルがニュースで連発されている。例えば「サンデー毎日」の11月16日号は西川公也農水相が政治金を「採石」に使ったという奇妙な例を取り上げた。また手前味噌だが筆者も、竹下亘復興相の事務所が政治資金パーティの後にそのクオカードを不自然な日時で購入していることや、舛添要一東京都知事が、参議院議員だった平成23年と24年だけで、自分が代表を務める政治資金管理団体と政党支部から「調査研究費」の「資料代」と言う名目で画廊やアートギャラリー、高級な美術書専門の古書店などから物品896万円を購入していたことを報じた。 ※「竹下亘復興相 政治資金で金券175万購入、一部はタイムスリップして過去の政治パーティに使用 酒は「備品消耗品」名目: 疑惑の総額、501万円に」(エコーニュース) ※東京都の舛添知事 政治資金で絵画、美術品の類896万円購入 事務所家賃も自宅に1516万円:計2412万円の支出(エコーニュース)  政治家が金をばらまいているんだろうな、ということは大体の人間が思っていたが、「こんなにバレやすい悪さをしている」ということは想像の埒外だったのではないか。 「政治資金収支報告書の収支と支出で帳尻が合わなかった」のを「週刊新潮」が見つけたり(小渕優子氏の例)、政治資金規正法が明文で禁止している政治家本人への寄付をそのまま記載する(江渡防衛相の例)など、ものすごくレベルの低い“失敗”だ。嘘をついてるとか違法行為をしているという意識もないのではないだろうか?
政治資金収支報告書

竹下亘復興相の政治資金収支報告書。以前、仙谷由人氏(当時官房長官)が購入して不適切な支出と認めた「タバコ」が支出項目に書かれている

 だいたい、一般企業ならチェックが働くだろうから、このレベルのミスはしない。いまは総務省のHPに政治資金収支報告書が掲載されていて(http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/)、 その読み方もそんなに難しいものではない。そもそも、違法行為がバレたら一発で政治生命が終わる可能性もある大事な書類だから用心に用心を重ねて作るのが普通のはずである。  また小渕氏の後任、宮澤洋一経産大臣も就任して3日もたたず、共同通信などにSMバーへの支出で領収書を切っていたことがバレてしまって、海外メディアにまで報道されるしょうもないスキャンダルになった(BBCによる報道:http://www.bbc.com/news/world-asia-29735264)。  ではなぜ、こうもわかり易い“失敗”(スキャンダルになりそうな迂闊な記帳や記帳ミス、実際の違法支出や二重帳簿も含めて「失敗」でくくることにする)を国会議員の事務所は連発するのか。  極めて単純な仮説だが、国会議員事務所のスタッフ(秘書)にいい人材が集まりにくいからだというのがもっとも筋の通る説明ではないだろうか。就職先として議員事務所がどんなところか、考えてみればいい。  一言でいって普通の会社の基準だと、国会議員家事務所は「ワンマン経営の零細企業」になる(配偶者が役職を兼ねていたり、世襲していたりというファクターが加わると、「同族企業」の要素も付いてくる)。例えば竹下事務所、河野事務所、小沢事務所など例は枚挙に暇がない。  そして、国会議員事務所に就職するのは基本的に政治家を目指している人間である(その他には進路先として有力な候補は少し思いつかない)。例として「鳩山邦夫」氏の項目をウィキペディア で見てみれば事務所出身者の一覧があって、うち8人が国会議員、3人が地方議員になっている(ただ彼の場合は特に資金力の潤沢な有力議員なので、典型的な議員事務所ではなく、また有名人になれなかった場合はウィキペディアに記載されないため、もちろん例外もたくさんいるはずではあるが)。  この「政治家志望者」がどんな人間かは出自で2パターンに分けられる。  1つは「議員本人又は他の議員の親族」で将来、自分も政治家になるために永田町で経験(筆者にはどういう世界かハッキリ分からないが)を積もうというケースである。例えば安倍晋三首相は実家で安倍晋太郎氏の秘書をしていたし、小泉純一郎元首相も福田赳夫事務所で秘書経験を積んでいる(ただ、これらはいずれも成功例)。このような場合は一種の縁故採用なので、優秀な人間かどうかは、かなり当たり外れがある……つまり一定割合でダメな秘書になる人間もいると推測できる。  もう1つのパターンは「政治家になりたい、普通家庭出身の人」である。しかし、この場合に国会議員事務所はあまり筋のいい進路とは言いがたい。まず、秘書時代の待遇については、一般企業と違って情報が余り出回っていないため、予測可能性がとても低い。また、仕えている議員が選挙で落選して収入が途絶えたら自分までいつ失業するか分からないという失職リスクもある。さらに議員によっては本人がパワハラ体質な場合もたくさんあるだろうし、それ以外にもお付き合い先(他の国会議員、地方議員、それに企業の経営者など)の性格を考えると、とにかく色々と神経を使うはずだ。これらの要素を考えると、一般的に議員事務所は、就職先としていいところとは言いにくい。なのでもし将来に政治家を目指せるとしても、出来ることなら避けて通りたいルートに思える。  仮にだが、一般家庭出身の人間が政治家になりたいとしたら、理想的な進路は官僚になったり、あるいは、難関企業に就職したあとで議員に立候補することだろう。例えば昔から新聞社などのマスコミ関係は鉄板ルートの一つだし、近年では外資系のコンサルティング会社や投資銀行も有望なキャリアになっている。また弁護士になるなどの資格取得系の方向もある。議員秘書に比べればどう考えてもこれらの方が待遇もよさそうで潰しもきく。  にもかかわらず、議員秘書になろうとする人というのは(失礼ながら一般論として)「政治家になりたいとは思っているが、そのためにいちばん理想的なルートをたどることが出来なかった人」になることが多いと思われる。つまりどれだけ偉い政治家の事務所であっても、一線級の人間が秘書になることは余りないのだ。  また、もし優秀な人間が入っても、議員事務所自体の組織構造のせいで思うように仕事を出来ない恐れがある。どこの国会議員事務所も小所帯(どんなに大きいところでも常勤の職員が3桁を超えることはない)のため、1人でもボスのような秘書がいるとその恐怖政治状態になって、能力がある人も十分に力を出せなくなってしまう。  以上のように、リクルートと職場環境上の構造的問題が重なって、非常に脇の甘い政治資金管理を連発する政治団体が永田町に出来たのではないだろうか。無論、そもそも政治家が違法行為をすること自体が言語道断だとはいうものの、その嘘や違法行為が簡単にバレてしまう背景にはこんな理由があるのかもしれない。 <文/江藤貴紀(エコーニュース:http://echo-news.net/【江藤貴紀】 情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。