LINE社上場見送りの遠因?親会社NAVERの「コンプライアンス無視」体制が韓国で許される理由――江藤貴紀「ニュースの事情」

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 1兆円規模上場を日米で同時に目指していると噂されていたLINE社が、唐突に9月22日、上場の見送りを発表した。  この点について、筆者が主筆を務めている「エコーニュース」では10月23日の時点で「LINE社、唐突に年内上場を断念 売上の約12~60%を占める主力事業「まとめブログ」の著作権問題が背景か」という記事を掲載した他、さらには10月29日の産経新聞(WEB版)も、「LINE上場「先送り」で囁かれる「コンプライアンス上のリスク」という裏事情」という分析記事を掲載した 。  これらの報道のコアとなるポイントを筆者なりに要約すると、以下の通りだ。 “LINE社の上場見送りには語りにくい隠された理由があるのではないか。実はLINE社は「まとめサイトビジネス」の大手であり、「NAVERまとめ」と「ライブドアブログ」を運営している。このうちライブドアブログの方は名誉毀損で訴えられるサイトがこの夏から出てきており、また他のまとめサイトも著作権法違反などで訴訟リスクがある。これらのまとめサイトビジネスが持つ、コンプライアンス上の問題点が大きくて、上場が見送られたのだろう”  この説が正しいとすると、LINE社と親会社である韓国ITの大手NAVER社(ポータルとフリーメール、検索エンジンでそれぞれ7割以上の圧倒的シェアを持つ)は、著作権侵害や名誉毀損などというコンプライアンス問題にうかつにも気づかないまま「1兆円上場」という大目標を打ち上げて、中座するはめになったということだ。  それではなぜこのような通常では説明の付かない判断ミスを犯したのか。  実は韓国国内で、NAVER社はかなりグレーなビジネスを展開しているが、韓国政府は同社の経営に強く関与する傍らで違法すれすれの行為にも甘い態度を取ってきた。そのため、経営陣にコンプライアンスの意識が希薄だったのではないかというのが筆者の仮説だ。  NAVERについては、日本国内のメディアを見ていても余りどういう会社か分からないので、韓国メディア、中央日報を見てみることにする。  するといろいろなことが韓国メディアに報じられてきたことがわかる。  例えば、韓国NAVER社の検索エンジンは「お金を出したところのランクを上げて」(しかもGoogleアドセンスのようには通常の結果と見分けが付かないようにして)表示することがあるという。そしてある不動産業者が、ライバル社への嫌がらせ目的で、NAVER社 に高い料金を支払って表示順位を上げて、ほとんど見分けの付きにくいページを出すという工作をしたことがある。この事件についての「名前も同じニセモノ業者、お金さえ出せば広告」 という中央日報報道 によれば、その嫌がらせを受けた会社は倒産スレスレになったが、NAVERに抗議をしてもまるで取り合われなかったという。  この事案は普通に考えると、商標権侵害とその幇助で、NAVER社自身も民事の損害賠償だけでなく、場合によっては経営陣の刑事責任まで問われかねないような事案だ(韓国法は日本法とドイツ法を母法にしており、知財関係の法律もおおむね似ているので、法律自体は日本のものと似ていると考えていただいて構わない)。(※余談だが、最終的にはNAVERは不動産サイト企業らから広告料を取るだけ取った後に、自社の不動産仲介サイトを作り、NAVERのポータルからも検索エンジンからもそこを表示させやすいようにして、他の業者をほとんど壊滅させ、業界を制覇したという……)  また、日本のNAVERまとめのベースになった「Knowledge-iN」というサービスも、サイト外の情報をユーザーがネイバー内に書き込ませて、自社の検索エンジンでの検索結果ではソースより上位に上げることでソースを弾き出し、ネイバーのサイトからネットユーザーを出さないという囲い込み戦略をとっている(これも日本の感覚では、元締めのNEVERが音頭を取った著作権法違反に思える)。  さらに新しく立ち上がった他のビジネスやサイト、アプリなどのサービスとそっくりに似たものを大急ぎでつくって、それをNAVERの広告で上位に表示させる~~そしてそっくり自分たちが利益を得るという焼き畑農業のようなビジネスを行ったことも報道されている 。またこれも知的財産法や、独占禁止法からかなり怪しさのあるビジネス展開である。  ではなぜ、このような法的リスクを厭わないビジネス手法が取れるのか。  これはあくまでも仮定の話になるが、その背景にはLINE社の親会社NAVERが韓国政府と非常に近い準「公営企業」のような状態にあるため、韓国の司法制度がNAVERに甘いのではないかと思われる。  例えば、現在のCEO金相憲氏は元ソウル中央地方院で知的財産と刑事部門を担当していた裁判官の出身だ。また同社の株式を見ても、株主第一位はNAVER本体(つまり自己株式を持っているということ)で9.2%を持っているが、第二位の株主は韓国政府年金基金(National Pension Service)である。この基金の運営は韓国政府厚生省、財務省を介して大統領府が監督して、また国会が投資方針について年次監査を行う 。  要は資本的にも人的にも国営企業で「自分が法律」だった会社が外国に出てきた訳である。このあたりの感覚のズレが、コンプライアンス無視のまま上場を目指すという理解しにくい失敗に繋がった可能性がある(というか、そう思わないとラインの年内上場取りやめは、説明が付かないのではないか)。  LINE広報部は今回の上場取りやめについて「事業優先のため」としているが、いずれにしてもこうしたコンプライアンス的な問題が今後焦点になってくるのは間違いないだろう。 <取材・文/江藤貴紀(エコーニュース:http://echo-news.net/)> 【江藤貴紀】 情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。