公約どおり、今のところは経済面では「アメリカ・ファースト」を実現しているが……
まさかのトランプ大統領誕生で、米国の脱退が決定的となったTPPをはじめ、日本経済へのさまざまな影響が予想される。すでに大統領選当日、トランプ優勢が伝わると日経平均は一時1000円近く暴落したが、その後は連日高値をつけている。
双日総研チーフエコノミストの吉崎達彦氏は、その理由をこう説明する。
「トランプ氏の勝利でもっとも重要なのは、ホワイトハウスと議会の双方を共和党が握り、ねじれが解消すること。オバマ政権では、大統領の政策は議会に反対されて実現せず、“決められない政治”が続いたが、トランプ政権ではそうはならない。公約の大規模減税や公共投資は、政権が発足したらすぐにでも議会を通すことができる。米国には今、久々に政治が動く期待感に溢れ、経済にも好影響が出ている」
トランプノミクスの柱は、吉崎氏の言うように10年間で6兆ドル(約660兆円)の大規模減税と、5500億ドル(約60兆円)の巨額公共投資。NYダウは連日過去最高値を更新しているが、牽引するのは、金融、鉄鋼、建設機械などの“トランプ銘柄”だ。
「市場の反応は、今後、米国がリフレに向けて動くのを見込んだもので、特に、金融セクターへの好影響は計り知れない。選挙前は、民主党政権があと4年続き、金融規制がさらに強化される見込みで、ウォール街には諦めムードが漂っていた。ところが、金融を規制するドット・フランク法の撤廃までブチ上げたトランプ氏が大統領になれば、規制が大幅に緩和される……金融に、強い追い風が吹いているのです」
一方、日本経済にはどのような影響が出るのだろうか。
「米国がリフレに舵を切れば、世界経済にプラスであり、日本にも好影響が及ぶ。すでにドル/円は110円辺りまで落ちており、日銀は労せずに円安を実現できました。原油価格が安定し、米国経済が好調なら円安が続き、年末には115円くらいまで下げる可能性もある。円安は株高を呼び、日本経済にはプラスに働くはず」
一方で、「米国脱退」が濃厚なTPPは、もはや風前の灯火にも見える……。
「トランプ大統領がすぐに翻意する可能性は低い……。ただ、ニュージーランドも批准したし、これに日本が続けば、ほかの参加国も後に続くはず。そもそも、全国民がTPPを歓迎する参加国などなく、どの国も国論が割れる中、苦労して進めてきた。だからこそ、域内の経済規模第2位の日本は、TPPを率先して推進する役割を買って出るべきです。アメリカ以外の11か国が引き続きTPPを推し進めることで、アメリカに圧力を掛け、翻意を促す時期が1、2年は続くのではないか。幸い、議会で多数を占める共和党主流派はTPP賛成ですし、世界が保護主義に走る中、自由貿易の旗を掲げれば、日本のプレゼンスは増大します」
もっとも市場に影響を及ぼすトランプ氏の言動は、しばらく注視すべきだ。
⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=121669
<取材・文/HBO取材班>