このようにあらゆる手を尽くして優秀な人材を囲い込み、新しい事業に挑戦していく中で、短期的にもっとも成長めざましかったのがキュレーションプラットフォーム事業だ。’15年度期には「新規事業・その他」の中で占める割合は2割程度だったが、2016年度第2四半期には約半分にまで達している。
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その後の顛末は本記事冒頭、あるいは他のメディアが詳細に伝えている通りだが、本稿では別の観点から考察を加えたい。それはこのままキュレーションプラットフォーム事業が存続していたら、どれほどの利益を上げていたのか? それはDeNAが必死に探している、ゲーム事業の次の柱となりえたのかという観点だ。
筆者は、これは否、だと考える。DeNAの決算説明資料でも、キュレーションプラットフォーム事業は「短・中期の」とか「2−3年後の」成長ドライバーという説明のされ方をすることが多かった。そもそもキュレーションプラットフォーム事業は、大雑把に言えば、既存の雑誌市場の置き換えを狙っていると言える。
紙の雑誌は広告費と講読料の2つのマネタイズ方法があるが、キュレーションメディアは全て広告収入に頼っている。この雑誌広告の市場規模は、電通が出している『日本の広告費 2015』によれば、たったの2500億円にも満たない。
これよりもう少し大きい市場として、コミックの4000億円弱の市場がある。ここでは「LINEマンガ」を手がけるメディアドゥが同事業で約100億円の売上をあげるに至ったが、キュレーションプラットフォームの上限もだいたいこのあたりにあったのではないだろうか。
仮に100億円の売上が立てばベンチャーとしては大成功だし、DeNA全体の規模からも無視できないサイズではあるが、いまだに年間1000億円の売上と200億円以上の利益をあげるゲーム事業と比肩するかと言われれば難しいのではないか。
売上高1000億円というのは、大手出版社である講談社・集英社・小学館あたりの年間売上高とほぼ同じだ。ましてや、DeNAの全盛期に誇った500億円近い純利益をあげるというのは不可能である。メディアの市場規模は、ゲームと比べてずっと小さいのだ。
DeNAもそれを分かった上で、あくまで短期的に、下げ止まってきたゲーム事業と合わせて会社全体の減収を食い止めるぐらいの役割を、キュレーションプラットフォームに期待していたのではないだろうか。いずれにしても会社全体が再び上向くには、キュレーションプラットフォーム以外の新規事業が大きく当たる必要がある。
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50億円かけてiemoとペロリを買収して作ったキュレーションプラットフォーム事業は、今回の騒動でほぼ全壊といった様相を呈しているが、同社にはいまだ750億円もの現預金がある。今回の騒動で失った評判を取り戻すためにも、健全な新規事業の成長を進めてほしい。
【参照】
株式会社ディー・エヌ・エー「
有価証券報告書・四半期報告書」
<文/大熊将八>
おおくましょうはち○現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『
進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは
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