自身の著書『A Life Coloured In』を手に持つケン・ドーン氏。背後のAva's Reef という作品(2016年)は、新しい時代への引き継ぎを感じさせる明るい、そして深みのあるきらびやかな海中。 孫娘のアバは右上を指し「ここ、もっとピンクがいい」とアドバイスしたと笑う。 「だからここにピンクを足したんだ」
「そう、2005年4月で間違いないよ。電話がかかってきたのは夕方4時半頃だった。ニューキャッスル株式取引所の会長さんが言ってきたんだ。
『オプション取引についてあなたの確認が欲しい』
『何かの間違いじゃないかな、なんのことか聞いたこともないよ』
と答えると、
『いや、あなたはその会社の株主ですから、ご判断いただく必要があります』と言うんだ」
そう語るのは、豪州の芸術家、ケン・ドーン氏。雑誌Hanakoの表紙イラストやロゴでも知られる存在だ。彼には今でもマガジンハウス社から使用料が振り込まれている。
80年代には作品を用いた商品事業にも着手し、商業的成功と共に世界的な著名アーティストとなった。日本を含め各国での個展や出版、1992年には豪政府から勲章、2006年には日本政府から外務大臣表彰も受賞。原画やシルクスクリーンに加えて、Tシャツや小物、水着、タオル、キッチンウェアなどオリジナルグッズを開発。この頃、15店舗にもなる直営ショップを展開し、従業員は150人を越えていた。
2000年代半ばまで、ケン・ドーンは作品の製作やライセンス契約などに没頭し、充実した幸福な芸術家人生を送っていた。
その彼の口座から、なんと5344万ドル(約44億円)もの大金が消えていたというのだ。