90年代に人気を博した芸術家、ケン・ドーン氏が資産管理トラブルに巻き込まれ44億円を失っていた!
ニューキャッスル株式取引所の会長からの電話を受けて、半信半疑のまま、知り合いの会計事務所、クーパー&ライブランド(Coopers & Lybrand)=現在は合併してプライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers)=に調べてもらった。すると、口座残高は約800万ドル(約6億円)。本来ならば当時のケン・ドーン事務所には6150万ドル(約50億円)はあるはずだった。およそ5344万ドル(約44億円)が信託口座から消えていたのだ。
「お金は『投資』されていた。投資と言ってもね、聞いたことのないものばかり。ふたつのサッカーチーム、健康スパ、ケータリング会社、マルタ島のバイオテクノロジー。ロンドンのスタジオでオーケストラを呼んで自作の歌をCDに録音というブロジェクトもあった。歌もCDも聴いたことないのにだ。
事務所の資金管理はG氏(仮名)に任せていた。公認会計士(CPA)で、長いつきあいがあり、信頼してた。彼と知り合ったのは、もともと私の父親が1950年代にビジネスをしていてね、隣の建物に会計事務所が入っていた。父親はそこに会計処理を依頼した。のちに会計事務所に新しいパートナーが入り、その人が亡くなった後、彼の息子が引き継いだ。若き会計士、それがG氏。思えば、出会い方が少しTricky(微妙な感じ)だったかな。奴のことはずっと信頼していた。でもそれは間違いだった」
G氏はあるとき、フィナンシャルブランナーを連れてきた。それがW氏(仮名)だ。コモンウェルス銀行の関連会社だったため、大手だし安心だろうと思い、W氏に任せることを承諾した。
「私は投資とかは詳しくないから、『ハイリスク投資は全体の5~10%、残りは優良株』としてあった。書面にしてG氏もW氏も合意してる。でも私たちの知らないところで、彼らはどんどん資金を投資に振り分けていたんだ。毎月の報告書はあったよ。それは紙一枚。詳しい収支報告書見せられても分からないからシンプルな一枚にしてくれと頼んでた。だからG氏は毎月、報告書一枚を出して来たんだが、……それは本当ではなかったんだよ」
国内外の投資先は23に振り分けられ、追跡も困難。審査もないビジネスやベンチャーにつぎ込まれ、資金はもはやどこにも見当たらない。
ケン・ドーン氏は2007年11月に提訴した。準備した書面は118ページ、550章にもなった。
2008年3月、裁判開始。訴えた相手はG氏と、彼自身が運営するB会計事務所。そしてW氏と雇用先のフィナンシャル・ウィズダム社(ウ社)。ウ社は豪州最大の金融機関コモンウェルス銀行の傘下にある。当初はG氏が加入していた専門職業賠償責任保険(professional indemnity insurance)の保険会社Allianzも被告に含まれていたが、補償適用期間外として除外されたという。
知らないところで行われたハイリスク投資
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