ブランドエクスペリエンスに成功すればデフレも怖くない
「香る柔軟剤は、化粧品や香水よりも身近な嗜好品です。メインターゲットは主婦層ですが、ユーザーからすれば香水や化粧品を買うよりも、香る柔軟剤は気軽に買える嗜好品なんです。化粧品や香水は自分用ですが柔軟剤は家族みんなで使うもの。そんな日常のなかでいかに賢く楽しむか。そんな主婦層のスイートスポットにうまく当たり、ブランドエクスペリエンスを作り上げることができたんだと思います」
ブランドエクスペリエンスとは、商品に触れて試し、実際に購入して利用するという実体験を通じて形成される、ブランドや商品に対する認識のこと。「半径30cmで華やかに香る」というコンセプトに触れ、実際に商品を購入して試し、その価値を認識させることに成功したというわけだ。
P&Gアジアファブリックケア統括ディレクターの木葉慎介氏
とはいえ株価は上昇しているものの、日本の一般家庭のデフレマインドは根強い。そんななかで、さらにブランド価値を上げるためにはどんな戦略を考えているのか?
「我々としては、デフレだからどうとかは考えていません。例えば今の世の中、身のまわりのモノがすべて高級ブランド品、もしくはすべて格安品という人ばかりではありません。これはブランド品を選ぼう、これは格安品にしようといったように、みなさんお金をかけてもいい部分とお金をかけない部分がハッキリしてきています。そんななかで、こちらのほうが少し高いけど、こんなメリットがある。だからここには少しお金をかけてもいい。そう思ってもらえる商品を作ることができ、それを実感してもらえるコミュニケーションができれば、うまくいくと思います。特に柔軟剤市場は、価格と価値の値ごろ感を提供できれば、まだまだ伸びると思いますね」
アジア地域の統括ディレクターである木葉氏は、普段シンガポールにおり、日本を訪れるのは2か月に一度。アジア各地のマーケットを飛び回っている
ちなみに普段、木葉氏はこういった戦略をどうやって考えているのか?
「自分で思いつくこともあれば、チームの誰かが提案してくれることもあります。決まっているのは、とりあえず思いついたことはチームで共有し話し合ってみること。例えば回転寿司。100円のお皿もあれば500円ぐらいのお皿も回っている。実際に食べている人を見ていると、その中間ぐらいの価格帯の商品がよく食べられている。だからといって250円均一というふうにお店はしない。それでなぜうまくいっているのか? こんな疑問を持ったら、とりあえずチームでディスカッションするんです。そこからなんとなくヒントは生まれます」
どうすれば消費者のインサイトに迫れるのか? ブランドの仕掛け人は、常にそのヒントを探しているのだ。 <取材・文・写真/HBO取材班>